認知症と歯磨き

認知症と歯磨き

認知症は進行するにつれて、料理や家事など日常生活に必要な行動すら忘れてしまうことがあります。
歯磨きもそのうちのひとつです。

歯ブラシの持ち方や動かし方を忘れてしまったり、ぶくぶくうがいの仕方がわからなくなってしまうことがあるんです。
子供の頃からの習慣は忘れにくい傾向にあるようですが、現在高齢の方は大人になってから歯磨きの習慣を付けた方も多いため忘れてしまいやすいのかもしれませんね。

認知症になり出来なくなったら諦める、簡単にできるものをやるようにするなどの対処法もありますが、歯磨きはそうもいきません。

歯磨きをしないとお口の中の状態はどんどん悪くなり、食べられない・飲めないなど身体の健康を損なってしまうかも
虫歯になっても歯医者さんに行くことを拒否してしまう、治療ができない患者さんもいるのです。

「よく噛む」ことは脳の活性化に繋がり、認知症予防や悪化の予防になると言われています。
お口の中の状態が悪くなり噛めなくなると、認知症が悪化してしまう可能性も否定できません。

認知症になってもお口の健康を保つことは大切です。
では、認知症の方の歯磨きはどうしたらいいのでしょうか?

認知症でも口腔ケアはできる限り自分で

認知症でも口腔ケアはできる限り自分で

認知症になっても、なるべく自分でできることは自分でやらせたほうが認知症には良いと言われています。

見ている側としては時間がかかる、効率が悪い、きれいにできていないなど気になる事がたくさんあるかと思いますが、少し我慢して自分自身でやってもらいましょう。

自分自身での歯磨きは、歯磨きをする刺激を感じたり手を動かす力を保つこと、歯磨きの仕方を考えるなど様々なメリットがあるんです。

歯磨きも同様に、自分自身でやっているところを見守るようにしてあげてください。
また、歯ブラシが上手に動かせていない場合や磨けていない部分がある場合も気になるかとは思いますが、認知症の方自身で磨いた後に仕上げ磨きをするのがおすすめです。

洗面所はシンプルに

洗面所はシンプルに

認知症の方が歯磨きをする洗面台は、極力シンプルにするのがおすすめです。

歯磨き粉に似たチューブ状の洗顔料やハンドソープ、ヘアワックスなどを置いていると混乱してしまう原因に。
間違って使っても気が付かないこともあるので、間違える原因を無くしておきましょう。

ただし、認知症になっても習慣付いていることは無意識のうちにきちんとできる方もいます。
問題なく使えている場合は物を置く配置などを変えないようにしましょう。

認知症が進行するにつれてできなくなることもあるので、できていると思っていても見守りはしてあげてくださいね。

仕上げ磨きをする

仕上げ磨きをする

ぱっと見、自分自身での歯磨きが問題なくできているように見えても、同じ場所ばかり磨いていたり、奥歯が磨けていないなどできていないことも多くあります。

自分自身で磨いてもらった後は、仕上げ磨きを取り入れてみてください。
歯間ブラシやフロスも、この時に使ってあげましょう。

定期的に歯科に通院する

定期的に歯科に通院する

認知症の方は歯磨きの力加減やブラシを当てる部分を間違えていて、口の中に傷がついていたり、歯や入れ歯に痛みが出ている可能性もあります。

でも、認知症の人は痛みがあっても痛いと言わない方も多いのです。
定期的に歯科に通院してお口の中をチェックしてもらって見てくださいね。

また、定期的に通っておくことで虫歯の治療や入れ歯の調整が必要な時に、歯医者さんへの拒否が起こりにくくなるかもしれませんよ。

認知症の人が口腔ケアを拒否する理由

認知症の人が口腔ケアを拒否する理由

認知症になると、それまで毎日自分自身でしっかり歯磨きをしていたのに急に歯磨きをしなくなったり、歯磨きを勧められると拒否する、仕上げ磨きや介助者の口腔ケアを拒否する方も少なくありません。

どうして認知症の方は口腔ケアを拒否してしまうのか、その理由をご紹介します。

口腔ケアが何かわからない

認知症の進行に伴い、歯磨きとは何か、口腔ケアとは何かがわからなくなってしまうことがあります。

結果として、なにかわからないものへの拒否反応が起きるのです。
知らないことをいきなりされるのは確かに怖いものですよね。

口を触られるのが嫌

認知症の方は、お口の中を触られたり他人に口をあけられて中をチェックされることを極端に嫌がる傾向にあります。
こちらも、どうしてそれをされているのかどうして必要なのかがわからないなどが理由です。

そのため、歯磨きや口腔ケアを拒否することにもつながってしまいます。

口の中が痛い

お口の中に傷があったり、入れ歯の痛みがあるなど何らかの事情で口を開けたくない可能性もあります。
痛みをアピールすることができず、少しでも痛くされないために口を開けないという方法をとるのです。

自分以外の手による歯磨きでは、痛みのある部分を力加減などで上手に避けることは難しいもの。
そういった事情が重なり、歯磨きそのものを拒否してしまうこともあります。

認知症の人の口腔ケア介助をするポイント

認知症の人の口腔ケアを介助するポイント

では、歯磨きを拒否している方のケアや拒否されないケアはどうしたらいいのでしょうか?

以下のポイントをおさえて口腔ケアをしてあげてみてください。

口腔ケアグッズを選ぶ

まず、口腔ケアをしやすいグッズを選んでいくことです。
軟らかい素材でできていて痛みを感じさせにくいものや、ブラシ部分が小さくお口の中で操作しやすい歯ブラシを選ぶなどです。

お口の中が乾燥している場合は口腔保湿ジェルを使って見たり、粘膜の汚れはケア用スポンジを使うなど、自分自身の歯磨きとはグッズを変えてみてください。

何をするのかしっかり説明をする

どうして口腔ケアが必要なのか、何を使ってどのように行うのかを説明してあげましょう。

何をされるかわからない恐怖がなくなれば、お口のケアをさせてくれるかもしれません。完全に理解はできないかもしれませんが、説明してもらえる、自分のことを思ってくれているというのが伝わるだけでも効果的です。

忘れてしまうようであれば、毎回説明してから行って見てくださいね。

認知症の人が楽な姿勢で行う

口腔ケアを行う場合は、ついついケアをする側がやりやすい姿勢を取ってしまいがちです。

しかし、それでは痛い姿勢で強いられるという、辛い時間が続くことになりかねません。
自分ではなく、認知症の人にとって楽な姿勢で行う、ということを意識してみてくださいね。

口の中をしっかりチェックしてあげる

ケアをする前にお口の中に赤くなっていたり、傷ができている部分がないか確認しましょう。

痛みがあると言わない可能性も高いので、手をぐっと握る、身体が動いてしまっていないかを見てみましょう。
痛みを感じてしまうと、後々口腔ケアの拒否につながることがあります。

口腔ケアのポイント

声掛けをする

一方的に口腔ケアをするのではなく、コミュニケーションを取りながらケアを進めることが大切です。

お口の中の状態の把握だけでなく、口を開けているのが辛くなっていないか、体制は辛くないか、気になる部分はないかなど声掛けをしてみてくださいね。

口腔ケアを受けている側は、どこに歯ブラシがあたるのか、何をするのかなどがわからない状態です。
どこを磨くのか、何をするのか、何を使うのかを伝えましょう。

こまめに吐き出させる

口腔ケアをしているときは、認知症の方は自分のタイミングで水や唾を吐き出すことができません。

苦しくなったり、むせてしまうと口腔ケアの拒否に繋がります。
また、無理に水を飲み込もうとして誤嚥を引き起こしてしまうことも。

こまめに水や唾を吐きだすタイミングを作るほか、歯ブラシに水を付けすぎない、歯磨き粉を使わないなどお口の中に水が溜まらない工夫をしてみましょう。

無理はしない

治療を受ける側の拒否する気持ちがあまりにも強い場合は、無理に口を空けさせてまでケアを行うのは得策ではありません。

どうしても嫌がる場合は1回くらいは口腔ケアを見送り、自分自身での歯磨きだけにしてもいいかもしれません。
無理矢理のケアは、介助者と認知症の方の信頼関係を損ねてしまうことがあります。

認知症の人も口腔ケアは大切

まとめ

在宅看護で認知症患者さんの口腔ケアを行うためには、家族の協力が欠かせません。
なかなか口腔ケアを受け入れてもらえずに心労がたまる面もあるかもしれませんが、口腔ケアを怠ってしまうと認知症の進行自体もさらに進んでしまいます。

でも、家族だけで頑張る必要はありません。
認知症の方への歯科訪問診療を取り入れている自治体もあります。
家族で背負い込まず、サービスの利用も考えてみてくださいね。