脳梗塞の後遺症について

・片麻痺(運動麻痺)
脳梗塞による運動麻痺は、片麻痺と呼ばれる体の左右どちらかに麻痺が起こることが多く見られます。
麻痺の程度は、手足の先の細かい動きにとどまるものから、手足が動かなくなるものまで、軽重さまざまです。

小脳が障害を受けた場合、バランスが取れなくなってしっかり立つことが難しくなったり、座っているときに体が揺れたりすることがあります。

・感覚麻痺
体の左右どちらかに現れやすい症状で、麻痺した側で冷たい・温かいといった感覚がわかりにくくなります。

手足の痺れも感覚麻痺に相当し、触られても感覚がなかったり鈍かったりするほか、それとは反対に強い痛みを感じる痛覚過敏のケースもあります。

・嚥下障害
口や舌、喉などをうまく動かすことができず、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる障害です。

喉に食べ物が詰まりやすくなるほか、飲み込んだものが誤って気管に入り、肺で炎症を起こしてしまうことがあります。
これを誤嚥性肺炎といいます。

嚥下障害は、運動麻痺や感覚麻痺によって起きることがあります。

・構音障害や失語症
障害を受けるところにより、ろれつが回らず思ったように話せなくなる「構音障害」や、的外れな答え方をしてしまう「失語症」にかかることがあります。

構音障害は、唇や舌の麻痺などによって起こりえます。
また、失語症にかかるとコミュニケーションが難しくなるため、家族や周囲との生活にも支障が出るケースがあります。

基本的な口腔ケア

脳梗塞の後遺症により、体の左右どちらかに運動麻痺や感覚麻痺が起こることで、嚥下や発声といった口腔機能が低下するほか、歯磨きをするなどの口腔ケアも難しくなってしまいます。

歯はしっかり磨けていないと、口腔内細菌により虫歯や歯周病を引き起こします。

歯周病は生活習慣病の一つで進行すると歯が抜け落ちたり、歯を抜かなければならなくなったりするため、将来にわたって天然歯を残して健康を維持するためには、適切な口腔ケアが不可欠といえるでしょう。

では、脳梗塞の後遺症により手や口を動かすのが難しくなった場合、どのようにケアをすればよいのか、基本的な口腔ケアの方法について説明します。

・鏡で麻痺している側の動きを認識してもらう
まず、食事や歯磨きの際は、麻痺している側のお口の動きなどを正しく認識してもらうため、介護者が鏡を使って麻痺している側のお口の動きを見せるようにします。

こうすることで、食事や口腔ケアがどのように行われているかわかるようになります。

また、ブクブクうがいするときは麻痺の影響で水が漏れやすいので、洗面器を用意するなど濡れてもよい環境を整えましょう。

・使いやすい歯ブラシを使用する
麻痺している側によっては、歯ブラシが持ちにくくなることがあります。
もし、市販の歯ブラシでは持ちづらいという場合は、柄が輪になっている福祉専用の歯ブラシもあります。

このほか、柄に割り箸などをゴムで括り付けて長くする、柄をガスバーナーなどで熱し、使いやすいように曲げる、柄にタオルやスポンジなどを巻いて持ちやすくする、といった工夫ができます。

また、利き手が麻痺してどうしても磨きにくいというケースでは、歯にブラシをあてるだけで自動で磨いてくれる電動歯ブラシを導入するのもよいでしょう。ただし、麻痺が軽い場合は、普通の歯ブラシを使うことでリハビリになるということも忘れてはなりません。

・噛み合わせや義歯が合わなくなりやすい
片側に麻痺があると、麻痺してしまった方の顎を使わなくなってしまい、骨が萎縮して噛み合わせや入れ歯が合わなくなる場合があります。
また、筋肉も低下して入れ歯を押さえる力も弱くなってしまいます。

こうした場合は、すぐに歯科医院で噛み合わせを調整したり、入れ歯を作り直したりしてもらうようにしてください。
脳梗塞の後遺症では嚥下障害も併発しやすいので、外れにくくしっかりフィットする入れ歯を作る必要があります。

・歯科医院へ定期的に通院を
食事や口腔ケアが難しくなると、歯周病や噛み合わせなど、お口のトラブルが進行してしまうおそれがあります。

定期検診を受けることで、そうした症状の早期発見・早期治療ができるようになります。
自分や周囲の人が歯は健康だと思っていても、歯科医師に指示された間隔で検診を受けることをおすすめします。

パターン別口腔ケア方法

・意思疎通が充分にできる、軽・中程度の麻痺
ご自身で口腔ケアができ、かつ自立が可能だけれど、利き手側が麻痺している場合、歯ブラシの柄にタオルを巻いたり、柄を変形させたり、割り箸などを加えて柄を伸ばしたりして、歯ブラシを持ちやすくします。

軽度の後遺症であれば、口腔ケアの際に麻痺している側を動かすことで、リハビリにも効果があると考えられます。

・意思疎通はできるものの、重度の麻痺が残っている
ご自身での口腔ケアや自立が難しい場合、可能であればご家族で歯磨きなどの口腔ケアを手伝います。

相手の反応などによく注意しながら、口腔ケアを行ないます。訪問歯科の利用も検討しましょう。

・意思疎通が難しい
ご家庭で歯磨きなどのケアをされる際に、コミュニケーションを誤ると指を強く噛まれるケースもありえます。基本的には歯科医師の指示に従いながら口腔ケアをしましょう。

まとめ

口腔ケアのアイテムは、歯ブラシだけではありません。歯ブラシを動かすのが難しい場合は、電動歯ブラシの導入も検討されるとよいでしょう。


このほか、歯がない方でも安心して磨け、刺激がすくない口腔ケアスポンジやガーゼ法など、さまざまな方法があります。
症状や意思疎通の程度などと合わせて、適切な方法を選択するとよいでしょう。

口腔ケアの際は、嚥下障害などが心配な場合、座ったり、横に向けたりするなど、相手にとって楽で誤嚥しにくい体位にしてから行なってください。

このほか、筋力の低下によって口が開いたり、唾液の分泌が減ったりすることでドライマウスになり、味覚障害などにつながるおそれがあります。
水分を摂取する、アメをなめるといった行為が難しい場合は、口の中に保湿ジェルを塗るなどしてお口の中を潤すとよいでしょう。

ご家族や介護者による口腔ケアでは不十分な可能性もあるので、訪問歯科を利用してお口の中を定期的にチェック、綺麗にしてもらうこともお勧めします。