■アルツハイマー型認知症と歯の本数の関係

日本では65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症患者、 または予備軍といわれており、世界中でも大きな問題の一つとなっています。超高齢社会といわれている日本にとって認知症は身近な健康問題であることは間違いないでしょう。

2021年4月、日本歯科総合研究機構が「歯数とアルツハイマー型認知症との関連」についての研究を発表しました。

”2017年4月に歯周炎または歯の欠損を理由に歯科受診した60歳以上の患者、それぞれ401万名、66万名を対象として、アルツハイマー型認知症病名の有無との関係を検討した。その結果、静・年齢の影響を統計学的に除外しても、歯数が少ない者、欠損歯数が多い者ほどアルツハイマー型認知症のリスクが高いことが明らかとなった。”

(引用:Association between number of teeth and Alzheimer's disease using the National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan

今回発表された論文の調査対象者は歯周炎の患者さん401万名、歯を失った患者さん66万名と多くの患者さんを対象としているとても重要な調査データです。
・20~28本の歯が残っている方を基準とし、1~9本の歯しか残っていない方は1.34倍
・1~13本の歯を失った方を基準とし、28本の歯を失った方は1.81倍
それぞれアルツハイマー型認知症のリスクが高いという結果が出ました。

以前よりお口の機能と認知症に関する調査・研究は進められており、久山町研究が2017年に発表した論文でも、
”60歳以上の日本人を対象に、歯の喪失に対する認知症発症のリスクを5年間追跡した結果、歯の喪失数が多いほど認知症の発症リスクが高くなる” との報告がされています。

(参考:Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study

「歯の本数が少ない方」、「歯を失っている本数が多い方」ほどアルツハイマー型認知症を発症するリスクが高くなるという関連性がみとめられてきていることからも、お口の環境を維持・改善することはアルツハイマー型認知症の予防や進行抑制につながる重要な要素といえるでしょう。

■なぜ歯の本数が少ないとアルツハイマー型認知症のリスクが高くなるの?

そもそも歯の本数がアルツハイマー型認知症とどういった関連性があるのでしょうか。

アルツハイマー型認知症のリスクを高める要因のひとつとして、咀嚼(そしゃく=ものを噛む)による脳への刺激が減少し、脳の認知領域に変化が起こることが挙げられます。

また、咀嚼能力が低下すると食事も摂りにくくなり、必要な栄養素が不足しアルツハイマー型認知症を引き起こす可能性も予想されます。

平成25年に広島大学から発表された「歯の喪失とアルツハイマー病の関係を動物実験で解明」
(引用:【研究成果】歯の喪失とアルツハイマー病の関係を動物実験で解明)でも歯を失うことがアルツハイマー病を悪化させるという結果が出ています。

マウス(ねずみ)での実験では、「歯を抜かず噛み合わせを維持した群」と「奥歯を抜いて噛み合わせをなくした群」に分けて比較し、評価を行ったところ、「奥歯を抜いて噛み合わせをなくした群」のマウスは学習・記憶能力の低下が見られたそうです。

つまり、お口や歯の機能である「咀嚼=噛む」という行為がアルツハイマー型認知症発症要因の一つになっているのではないでしょうか。

小野塚実教授らの研究で、チューインガムを用いた噛むことと脳の活性化の関係性の実験によると、脳の血流が活性化することが発見されていることからも分かるように、よく噛むことと脳の活性化には密接な関係があるといえます。

歯が少なくなると食べ物が噛みにくくなる、咀嚼回数が減ることで脳への刺激も減るという悪循環に陥り、アルツハイマー型認知症を発症するリスクが高くなる、ということです。

■歯の本数だけでなく歯周病も認知症と関りがある?

国民の8割が罹っているといわれている歯周病ですが、この歯周病もアルツハイマー型認知症との関連性が報告されています。

歯周病に罹り、お口の中の歯周病菌が歯茎から血管内に侵入し、血流に乗って脳内にたどり着きます。脳内に侵入した歯周病菌によってアルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβが増加し、脳神経の破壊、脳の萎縮が起こり認知機能の低下を招くという考えがあります。

また、歯周病が悪化すると歯が抜け落ちてしまう可能性もあります。上記で説明したように、残っている歯の本数が少ない、歯を失っている本数が多いということもアルツハイマー型認知症のリスクを高める要因となりますので、歯周病の予防もしっかり行うことが重要でしょう。

■まとめ

口腔の健康と認知症発症の関連性はエビデンス(証拠・根拠)が蓄積されてきています。歯を歯周病などで失い歯の本数が少なくなっている方はアルツハイマー型認知症を発症するリスクが高くなるということが解明されてきています。自分の歯を大事にしていきたいですね。

歯を失いブリッジや入れ歯、インプラントなどの噛み合わせの治療をせずそのまま放置している方は、歯科治療を受けて噛む機能を回復させ、アルツハイマー型認知症の予防に努めてはいかがでしょうか。

歯が残っている方も虫歯や歯周病を予防するためにセルフケアだけでなく歯医者さんへの定期検診も習慣化することで残っている歯を長持ちさせやすくなるでしょう。

決して他人事ではない認知症、未然に防ぐためにも今一度、口腔環境を見直してみませんか?