歯周病に悪影響を与えるタバコの3成分

タバコに含まれるどんな成分がお口の中の環境を悪くするのでしょうか。解説していきます。

・ニコチン
ニコチンには血管を即座に収縮させる機能があります。歯の周囲の血管が収縮することにより、マクロファージやリンパ球などの免疫担当細胞が到達(遊走)しにくくなります。免疫機能が上手く機能しなくなるため、歯周病の進行が加速する可能性が考えられます。

さらに、ニコチンは自律神経にも作用します。タバコを止めたくても止められない人が多いのが、ニコチンが有する強い依存性の影響によるものです。

・タール
タールは発がん性物質など健康に悪影響を及ぼす成分が50種類以上含まれています。実際、タールの含有量が少なく安全性を売りにしているタバコが販売されています。

タールの口腔内への影響ですが、まず歯の着色の問題があります。ヤニが歯に付着するのはタールの影響です。他の影響としては、発癌性物質を多く含むので口腔癌の発症リスクの上昇が考えられます(お口の中の癌で最も多いのは舌癌です)。

・一酸化炭素
酸素同様、一酸化炭素は赤血球のHb(ヘモグロビン)と結合します。一酸化炭素はヘモグロビンとの結合能力が200倍以上高いといわれています。酸素が上手く結合できなくなる状況が継続すると、身体は酸素運搬能を増やそうとします。結果、赤血球数自体が増加することで血液のサラサラ感が減少し、粘り気が強くなります。いわゆるドロドロ血液の誕生です。

大切なことなので再度まとめますと、タバコの有害成分であるニコチンと一酸化炭素が歯の周囲(歯周組織)の血管収縮やドロドロ血液をもたらし、免疫の役割を担う細胞が歯周組織に届きにくくなり、歯周病が進行しやすくなるというわけです(タールは口腔癌発症と歯の着色に関与します)。

さらに、タバコの煙により口の中が乾燥しやすくなります。口の中が乾燥すると唾液の自浄作用が機能しにくくなり、歯周病の原因となるプラークが歯に付着したままになりやすいです。

禁煙をすることで得られる効果はどのくらい?

タバコの有害性と歯周病との関連性を理解していただけたかと思いますが、タバコを吸わなくなることでどんな効果が得られるのでしょうか。

喫煙をしている歯周病患者の方が禁煙することは歯周病の治療に効果があると考えられています。歯周病患者の病態を喫煙の有無で比較している過去の研究によると、喫煙が歯周病の更なる悪化を引き起こすことが報告されています。また、喫煙している場合、非喫煙者の口腔癌発症リスクに比べ2倍高くなると報告する論文もあります。

喫煙は免疫機能の低下や歯周組織の細胞の機能低下をもたらすという研究結果もありますので、禁煙することにより歯周病治療による歯周組織の改善を早く見込めることでしょう。

禁煙は歯周病治療の他にも良い効果が

禁煙は歯周病治療に良い効果をもたらしますが、歯周病の改善以外に歯科領域ではどのような効果が期待できるのでしょうか。

・口臭
歯周病患者さんの多くは口から硫黄の臭い(硫黄臭)がします。歯周病原細菌が産生する揮発性硫黄化合物が口の臭いの元です。禁煙して歯周病治療をすることで歯周病の原因となる細菌が早く減少すれば、口臭の早期改善も期待できます。

・歯の着色
タバコを吸う人は前歯にヤニがびっしりと付着している方が多いです。やにはべったりと歯に付くため、歯ブラシでは落としにくいです。歯科医院専用の器具を使って、落とします。

※禁煙することによって、タバコによる歯の着色汚れは無くすことが可能です(ただし、歯の着色自体は、普段摂取している食べ物などの影響も強く受けていますので、タバコを止めると歯の着色が全く無くなるというわけではありません)。

・歯茎の変色
喫煙をするとメラニン色素が出るため、歯茎(歯肉)が黒ずんできます。黒ずんだ歯肉は歯科用レーザーによる照射で改善することはできますが、あくまで対症療法です。

禁煙することにより、歯茎の黒ずみを防ぐことが可能です(歯茎の黒ずみの原因として、他に金属の被せ物の影響による「メタルタトゥー」というものもありますが、こちらもレーザー照射による改善は可能です)。

・インプラントの維持
お口の中に埋め込んだインプラントの周囲の組織は天然歯より不安定で歯周病になりやすいです(インプラント周囲炎といいます)。インプラント周囲炎は喫煙習慣があると発症するリスクが高まります。

インプラント周囲炎の発症はインプラントが抜け落ちる主な原因の一つです。禁煙はインプラント周囲炎の発症リスクを低減することにつながるため、インプラントを維持することに貢献します。

・食欲増進
禁煙するとニコチンの禁断症状として食欲増進が認められます。口寂しさやイライラ防止のために食事量の増加につながります。禁煙の恩恵を受けるために、肥満傾向の方は正しい食生活と適度な運動を日々行うようにしましょう。

歯周病の改善には治療に加えて禁煙することが重要です

禁煙することが歯周病の治療をする上で効果があることを説明しました。また、禁煙は歯周病の改善以外に様々な効果をもたらすことを分かっていただけたと思います。

禁煙がいくら歯周病に効果があると言っても、ニコチンの禁断症状があるため、タバコ愛好家の方がいきなり禁煙することは非常にハードルが高いでしょう。今日から禁煙をスタートしたとしても、タバコに含まれるニコチンの中毒性により誘惑に負けてすぐにタバコを吸ってしまう可能性があります。

タバコを止めたいとお考えの方は、「禁煙外来」の積極的な利用をおすすめします。ニコチンパッチのような貼付剤や内服薬を利用して禁煙に導いていく治療を受けることになります。治療例を挙げると、2ヶ月間はニコチンパッチを貼り付けて禁煙し、その後1ヶ月間はニコチンパッチを貼らずに禁煙を継続します。

喫煙は百害あって一利なしです。本記事を通じ、喫煙によるお口の中への悪影響を理解いただき、禁煙をするきっかけになってくれれば、嬉しい限りです。

※禁煙外来は公的医療保険の適応となります。ただし、いくつか条件を満たすことが必要です。詳細は禁煙外来のあるクリニックにお問い合わせください。

*本記事の内容は患者さんの状況により異なる可能性があります。詳細はかかりつけのクリニックにお問い合わせください。