口腔ケアの目的をしっかり理解しよう
口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上をめざした口腔より全身を考える科学であり技術です。
具体的には感染症の予防や重症化の予防、がんや心疾患などの治療における支持療法や認知症の予防や進行の予防など、高齢者への各種サポートも含め、多岐にわたります。
口腔ケアの目的は、主に3つ挙げられます。
・口腔内を清潔に保つ(虫歯や歯周病などの歯科疾患の予防)
口腔内の衛生状態を維持して口腔内が潤った状態を保つことは、虫歯や歯周病の予防に繋がります。
清潔に保つことは、口腔ケアの重要な第一歩となります。
・食べたり飲んだりする口腔機能の維持
咀嚼や嚥下などの食べて飲み込む口腔機能が歯を失ったり、嚥下障害等で保てなくなると、食事をはじめとした日常生活にも多大な悪影響が及びます。
よく噛んで食べることは、栄養の摂取や脳の活性化などさまざまなことに役立ちます。
生涯健康でいるためにも、食べることは大切なことです。
・QOLの向上
口腔状態の悪化は、身体全体の疾患発症のリスクも増大させます。
口腔ケアによって口腔内の状態を一定以上の水準に保つことは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させるために重要です。
口腔ケアで得られる具体的な効果
・唾液の分泌の促進
口腔ケアによる刺激で唾液の分泌が増えると、食べ残しが唾液によって洗い流されたり、乾燥を好む細菌の繁殖が抑制できます。
口腔ケアによって口の中の環境を改善したり、唾液腺を刺激すれば、口臭の予防にもつながります。
・誤嚥性肺炎の予防
「誤嚥性肺炎」とは、食べ物を飲み込む機能の衰えによって食物や唾液が食道ではなく気管に入ってしまい、口腔内細菌や食べかすが肺に侵入することで引き起こされる肺炎です。
誤嚥性肺炎は喉の機能が衰えてきている高齢者がなりやすい肺炎であり、悪化すると死に繋がることもあります。
高齢者の死亡原因として上位のため、日頃の口腔ケアは誤嚥性肺炎の発症を予防することにつながりますよ。
・虫歯・歯周病の予防
口腔内の衛生状態を改善することは、当然ながら虫歯や歯周病の予防にもつながります。
虫歯や歯周病が悪化すると口腔内だけでなく、身体全体の健康状態に波及する可能性もあります。全身の健康状態への悪影響を未然に防ぐためにも、口腔ケアの意義は大きいと言えます。
・口腔機能低下を防ぐ
高齢になると口腔機能が低下しやすくなり、食事や会話などの日常生活に支障をきたします。
食事に支障が出れば必要な栄養が摂取できなくなる可能性もあり、栄養が不足すると免疫力低下などにもつながります。
老後の健康状態を考えるうえでも、口腔機能を維持することは重要です。
具体的にどんな口腔ケアをすればいいの?
・歯磨き(歯ブラシ・電動歯ブラシ)
歯ブラシによる歯磨きは欠かせません。
手が障害などで上手く使えない場合は電動歯ブラシを使ってみましょう。
自動的に細かい動きを行ってくれるため、歯の表面に軽く当てるだけにして、1歯につき数秒ずつあてがいながら、少しずつ隣の歯へ動かすだけで磨けます。
誰かに磨いてもらうのも構いませんが、歯磨きの振動や歯磨きをしようとする動きは脳にいい働きを及ぼすと言われていますので、なるべく自分自身で磨いてみてくださいね。
・タフトブラシ(1本ブラシ)
歯ブラシではカバーしきれない部分の汚れを落とすことができるのがタフトブラシ(毛束が一つしかない歯ブラシ)です。
歯の裏側、奥歯の側面(外側)、矯正装置や被せ物の隙間、歯と歯が重なっている部分、親知らずなどの生えかけの歯といった、歯ブラシでは磨きにくい部分の汚れを落とせます。
特に、歯が抜けた位置の隣の歯の側面などは磨きやすいです。
・フロス(糸ようじ)
歯の間に通して汚れを落とす「デンタルフロス(糸ようじ)」も、口腔ケアに役立つアイテムです。
歯と歯の間は歯ブラシの毛先が入り込めず、汚れが残る部分です。
多くの人は歯と歯の間の汚れが取り切れていないため、歯と歯の間から虫歯になったり歯茎に炎症が起きたりしてしまいます。
1日1回、就寝前の歯磨きを終えた後だけでもかまいませんので、フロスで歯と歯の間のケアをすることがおすすめです。
・歯間ブラシ
歯と歯の間の歯垢の除去に役立ちます。
歯の間のサイズに合わせて様々な細さのものが販売されているので、自分の歯の隙間のサイズに合った歯間ブラシのサイズを選びましょう。
サイズの合わない箇所に無理矢理差し込むと、スッキリするかもしれませんが歯茎を傷つけてしまったり、歯茎が下がる原因になるのでやめましょう。
・洗口液
洗口液は口に含んですすぐことで、口腔内の不快感やねばつきを解消することができます。
歯磨きだけではすっきりしない、何か違和感が残る場合は洗口液を活用してみてください。
また、歯磨きの代わりにはなりませんが、どうしても歯磨きができない時に洗口液を使うことで多少の殺菌作用や口臭予防が期待できます。
・液体歯磨き
「液体歯磨き」は、見た目は洗口液に似ていますが、液体タイプの歯磨き剤です。
口に含んだりすすいだ後、歯ブラシでしっかり歯磨きをしてください。
液体歯磨きは歯ブラシで汚れを落としやすくする効果があるものがほとんどですが、磨かなければ汚れは取り除けません。
また、洗口液とは異なり、液体歯磨きを使用して歯磨きをしたら水でしっかり口をゆすいでください。
・歯科医院で行う専門的なケア(プロフェッショナルケア)
口腔ケア,歯科医師や歯科衛生士に行ってもらう「プロフェッショナルケア」もあります。
全身の健康状態も確認しつつセルフケアに関するアドバイスを受けたり、歯石の除去、フッ化物のような専門的な薬剤の使用、口腔機能の回復や維持のためのケアを行います。
口腔ケアは全身疾患予防にもつながる!?
・糖尿病の予防
歯周病菌が歯茎から血管に侵入すると、血糖値を下げる働きを持つインスリンの働きを妨害してしまい、糖尿病の病態が悪化します。
口腔ケアによって歯周病の細菌を減らすことで、糖尿病の悪化を防ぐことにもつながります。
・動脈硬化の予防
口腔内細菌の血管への流入は、動脈硬化発症を引き起こす可能性もあります。
細菌により血管内に塊が作られ、血液循環を悪化させてしまうためです。
動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクも増加させるため、歯周病菌の広がりを阻止するのは重要と言えます。
・妊娠性歯肉炎・低体重児出産の予防
妊娠している時期には、女性ホルモンの一種である「プロゲステロン」と「エストロゲン」が歯周病菌の発育を促すため、歯肉炎を発症するリスクが高くなります。
また、妊娠後期に歯周病になると、歯周病の炎症に対して免疫反応に引きずられて、子宮を収縮させる筋肉の活動が高まります。
結果として、低体重児出産を引き起こしてしまう可能性もあります。
自身と子供の健康状態を守るためにも、妊娠中の口腔ケアは非常に重要な意味を持っています。
・認知症の予防
認知症患者の脳内から歯周病菌が検出されたことにより、歯周病が認知症の発症に関与しているのではないかという研究報告があります。
歯周病菌が持つ毒素が脳内の免疫細胞を刺激することで炎症が発生し、「アミロイドベータ」と呼ばれる脳内の老廃物の蓄積を加速させてしまう可能性が強く指摘されているのです。
認知症になる可能性を減らすためにも、早いうちから口腔内のケアは欠かさず行っておきましょう。
・がんの予防
歯周病を発症すると、免疫細胞はその対策のために「炎症性サイトカイン」という物質の放出を始めます。
炎症性サイトカインはがん組織からも多量の放出がなされているといわれており、体内で炎症性サイトカインが上昇するとがん組織の巨大化も促進すると考えられています。
がんの闘病生活は薬の副作用などでQOLが下がるため、ご自身での口腔内環境の管理が難しくなるかもしれません。
セルフケアが難しい時は、積極的に歯科医師や歯科衛生士による口腔ケアを受けましょう!
まとめ
口腔ケアの主な目的は口腔内口内環境の維持や改善ですが、全身の健康状態を向上させ、各種疾患を予防することにつながります。
セルフケアだけでなく、プロフェッショナルケアも取り入れるとより盤石な口腔ケアとなることでしょう。
定期的に歯科医院を受診して、プロフェッショナルケアを受けましょう!