歯周病と認知症の関連

認知症は、脳の認知機能が低下している病態を指しますが、その原因には諸説あります。

・脳の免疫細胞であるミクログリアという細胞の活性
・脳内の血流障害
・脳内タンパク質のアミロイドベータの蓄積やタウタンパク機能の異常
・脳の障害(外傷や脳梗塞)

このほかに「脳内の過剰な炎症(ストレスなども含む)」も原因のひとつに考えられていますが、この炎症に歯周病の原因菌が関わっているのではないかといわれています。

認知症にはいくつかのタイプがありますが、その中でも患者数が多いとされるアルツハイマー型認知症の患者さんの脳内を調べると、歯周病の発症に強く関連しているP.G.(ポルフィロモナス・ジンジバリス)という菌の細胞外膜が発見されたという報告があります。

そのため、口内から血管を通って脳内に達したのではないかと考えられています。

このように、歯周病が認知症のリスクファクターとなっている可能性が示されており、歯周病の予防が、認知症予防もサポートする存在となるかもしれません。

参考:歯周病で認知症?考えられるメカニズムとは?

歯磨きと認知症の関連

ここまでは歯周病と認知症が関連する可能性について説明しました。
歯周病を予防すれば、認知症のリスクを下げられるという可能性があります。

歯周病の予防は、ご家庭での歯磨きや歯科医院の定期的なクリーニングによって歯や口腔内をきれいにしておくことが基本です。
この歯磨きを疎かにして口腔内の環境が清潔でなくなってしまうことも、認知症と関連があるのではないかいう指摘があります。

それでは、歯を十分に磨かない・磨けないことで認知症発症に影響するかもしれない要因にはどのようなものがあるのでしょうか。 

低栄養

低栄養とは、タンパク質やエネルギーといった、体に必要な栄養が不足していることをいいます。
低栄養が続くと体を動かすためのエネルギーを確保できず、筋肉や骨などのもとになる材料が不足してしまいます。

認知症の進行には、この低栄養や、微量栄養素(ビタミン・ミネラル)の欠乏といったことが影響しているといわれており、さらに認知症の患者さんには低栄養の状態が広く認められています。

高齢者が歯を喪失してしまうと、硬いものなどが痛くて食べられなかったり、しっかり噛めないから食べるのを止めたりしてしまいます。
そのため、果物や野菜などに含まれる栄養が充分に摂取できず、微量栄養素の摂取不足にもつながるのではないかと考えられています。
(参考:日本口腔衛生学会 低栄養

脱水

口腔環境が悪化すると、食べられる物が限定され、かつ食事量も減る傾向にあります。
そのため、食事からの水分を吸収する量も減り、脱水気味になる可能性があります。

水分不足になると、意識がぼんやりとする「せん妄」と呼ばれる症状を起こすおそれがあります。
せん妄自体は認知症と似て非なるものですが、せん妄が認知症を発症させるリスクがあるもいわれています。

水を沢山飲むことで認知症の症状が改善することが実際に報告されています。

高齢者は喉の渇きに鈍感です。
水分不足を起こさないためにも、日頃から歯を磨いて、食事からたっぷり水分を吸収できるようになることが必要だと考えられます。

生活習慣病(肥満、高血圧)

生活習慣病も、認知症のリスクファクターとして知られています。

メタボリックシンドロームの診断基準となっている肥満や高血圧などは歯周病と関連があるといわれています。
歯周病になってしっかり噛めなくなると、食べ物を噛み砕けず大きいまま飲み込んだりすることで、肥満や高血圧につながるおそれがあります。

社会交流の推進

継続的に働くことや、体を動かす趣味、社会活動を通じてほかの人と関わるなどの社会交流は、認知症のリスクを下げるといわれています。

歯を喪失したり変色したりするなど、歯の健康状態が悪くなると、老年うつなどを引き起こして外出しにくくなるという報告があります。
また、口腔環境が悪いままだと、認知機能が低下して社会範囲が狭まってしまい、趣味や食事などが楽しめなくなるという報告もされています。

口元の見た目がきれいになり、口臭なども解消することで、人間関係を広げたり深めるために社会交流を活発にすることへの抵抗が少なくなるかもしれません。

誤嚥性肺炎の予防

誤嚥性肺炎を起こすと、場合によっては入院することもあります。

入院により生活が突然大きく変化することもあり、高齢患者の場合は認知機能が低下するという報告もあります。
そのため、認知症につながるリスクがあると考えられています。

また、誤嚥性肺炎が重症化すると、意識不明になったり寝たきりになったりするケースもあり、認知症を進行させるかもしれません。

歯磨きなどによる口腔ケアは、口内の細菌を減少させるほか、高齢者が歯磨きを習慣化することで、発熱や肺炎の発症が低下するという研究もあります。

口腔ケアによって誤嚥性肺炎を予防することが、認知症のリスク減少にもつながるかもしれません。

健康的な食事とは

低栄養や水分不足など、認知症は食事の栄養とも大きな関わりがあると考えられます。
それでは、健康的な食事を摂取するには、どうしたらよいでしょうか。

まず注目したいのが、カロリーです。
欧米型の高カロリーな食事は、人体に与える酸化ストレスも高く、認知機能が低下するリスクを増加させるといわれています。

一方で、野菜や果物を多く摂取する地中海型の食生活は、認知能力の低下を抑える効果があると考えられています。
地中海食を食べる習慣のスペインは長寿国です。

また、認知症の患者さんは偏食傾向にあり、魚や緑黄色野菜、海藻などの摂取が少ないという報告もあります。
栄養のバランスに気を付けながら食事をし、さらに米の量なども食べすぎないようコントロールすることで、認知症を発症するリスクを下げられるのではないかと考えられます。

理想的なお口の状態

天然歯は一度抜けると生えてこないものです。
そのため、高齢化するにつれて歯の本数は少なくなる傾向にあります。

それでも、歯の健康を守って、年齢を重ねても20本以上の歯を保とうという「8020運動」と呼ばれる運動があります。
これは、日本歯科医師会が推進しているもので、歯を失う原因とされる歯周病などの予防のため、日々の歯磨きや定期検診などを促すものです。

高齢になっても健康な歯を残すことは、食事や社会生活を楽しく送るだけでなく、認知症などのリスク軽減につながる可能性もあり、健康な歯を守ることはさまざまな面から大切だといえるでしょう。

私たちの中で習慣化している「歯磨き」という動作ですが、ひとつひとつその動きを分解してみると、手先を細かく動かして、直接目では見えない複雑な形状をした口の中で歯ブラシの動きをコントロールするという、非常に複雑な動きをしています。

このように手と口を動かすという一連の動作は、脳を広い範囲で刺激します。
特に口の中は鋭敏な三叉神経や迷走神経・顔面神経などが支配しており、神経を刺激することで認知機能の低下を抑えられる可能性があります。

もちろん、歯磨きは本来の目的である虫歯や歯周病などを予防するものですが、しっかり磨いているつもりでも発症してしまうことがあります。
普段から定期検診を受けることで、虫歯や歯周病を初期段階のうちに発見し、早く治療できるようになります。

口腔環境を日頃から清潔にしておくためにも、定期的な通院は欠かせないといえるでしょう。

理想的なお口を保つために

口腔環境を清潔に保つための、さまざまなケアの仕方があります。

歯磨き
日々の歯磨きが、デンタルケアの基本になります。
毎食後に磨いてお口の中をきれいにすることも大事ですが、歯周病菌は夜寝ているときに繁殖するといわれています。

寝る前は特に隅々まで磨くとよいでしょう。

フロスや歯間ブラシ
フロスや歯間ブラシは、歯ブラシの届きにくい歯間に特化したデンタルグッズです。
歯周病の原因となる歯垢を取り除き、付着状態を改善します。

定期的なメンテナンス
「歯の健康には問題ない」と思っていても、歯周病や虫歯はひそかに進行しているかもしれません。
定期検診では、虫歯や歯肉のチェックを受けられるので、まだ初期段階の歯周病や虫歯を発見して治療できます。

また、飲み込むことや噛むことでお悩みがある場合も、歯科医師に相談する良い機会になります。

口腔保湿剤
お口の中が乾燥するドライマウスの症状が出ると、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
保湿剤を配合したスプレーやジェル、人工唾液などといったデンタルグッズが販売されています。

さらなるドライマウスの予防ケアとしては、筋力トレーニングや唾液腺のマッサージなどが挙げられます。

義歯の清掃
義歯は外して磨かないでいると、食べカスだけでなく歯垢や歯石が付着してしまいます。
カビも繁殖して不衛生な状態です。

毎食後にお手入れをするよう心掛けましょう。

舌の清掃
舌が汚れると、口臭の原因となることがあります。
特に、舌の上が白い場合(舌苔というカビの多い沈着物が溜まると)、口臭の原因である可能性が高いです。

舌を磨くための専用ブラシも販売されているので、ご自身に合うものを使用するとよいでしょう。
ただし、磨きすぎると舌を傷めることがあるので、可能な限り磨く回数を制限するつもりでご使用ください。