口腔内常在菌とは?
腸内に細菌が生息しているように、お口の中にも細菌が定着しており、これを「口腔常在菌」と呼びます。大人のお口の中には、およそ700種、プラーク(歯垢)1g中に1,000億個もの口腔常在細菌が生息しているといわれているのです。
口腔常在細菌は単独で存在しているのではなく、主に頬粘膜、舌、歯面、歯肉溝という部位に集まってコニュニティを形成しており、これを「口内フローラ(口腔内細菌叢)」と呼びます。
一つの菌種が集まるだけでなく、異なった菌種が集まって口内フローラを形成します。
口内フローラのバランスが良好に保てている状態であれば、口腔内常在菌は外から入ってこようとする微生物の侵入・定着を防ぐ役割を果たしてくれます。
このように本来は口腔環境を維持してくれるのですが、お口の中のケアが不十分な状態になると、口腔内常在菌が増えて口内フローラのバランスが崩れてしまうことに。
結果、正常な口腔環境を保つために必要な善玉菌よりも、歯周病や虫歯に関連する悪玉菌の割合が増えてしまいます。
口腔内常在菌がお口の中に存在すること自体は全く問題ないものの、プラークが蓄積して口内フローラのバランスが崩れると、歯周病や虫歯になりやすい原因となります。
歯周病と関わりがある常在菌
では、口腔内常在菌のバランスはどのように変わり、また、バランスが崩れると歯周病などの疾患を引き起こすのかを見ていきましょう。
まず、歯周病ですが、代表的な「歯周病菌」が3種類あります。歯周病の「レッド・コンプレックス(最重要歯周病原細菌)」と呼ばれています。以下、紹介します。
ジンジバリス菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)
ジンジバリス菌は増殖すると歯ぐきの腫れや出血、さらに重症化すると膿が出たり歯が抜け落ちたりする原因に。少数の存在で細菌フローラを悪玉菌多い傾向に変えてしまうという特徴があり、歯周病予防にはとても厄介な存在です。
また、歯周病に関連するだけでなく、細菌から出される毒素が血糖値を上げる作用もあり、血栓ができやすくなるという病態を引き起こします。
タンネレラ・フォーサイシア菌
酸素に非常に弱い性質を持つものの、お口の中では活発で、様々な毒素を出して歯周病を引き起こします。
トレポネーマ・デンティコラ菌
デンティリジンという酵素を出して炎症を引き起こし、歯ぐきから出血しやすい状態を作ってしまう口腔内常在菌です。白血球などの免疫から逃れる機能を持つ厄介な細菌です。
虫歯と関わりがある常在菌
虫歯と関連する代表的な口腔内常在菌も3種あります。
ミュータンス菌(ストレプトコックス・ミュータンス)
「虫歯菌」というものを聞いたことがあるでしょうか。お口の中に様々な細菌が存在する中で、虫歯菌と呼ばれるのがこのミュータンス菌です。
ミュータンス菌は、グルカンというネバネバする物質を作って歯に強力にくっつきます。水では簡単に洗い流せないため、歯面に細菌がどんどん溜まっていきプラークを作ってしまうのです。
そして、プラークの中にいるミュータンス菌は、食品や飲料に含まれる砂糖やブドウ糖から酸を作る働きをして、歯のエナメル質を溶かして虫歯を作ってしまいます。
ソブリヌス菌(ストレプトコックス・ソブリヌス)
ミュータンス菌と同様に虫歯を作り出す細菌として知られています。
ラクトバチルス菌
ミュータンス菌と同様に虫歯を作り出す細菌として知られています。
口腔内常在菌は全身の健康に影響がある?
口腔内常在菌はお口の中だけでなく、全身の健康に影響があることが次々と明らかになっています。
口内フローラのバランスが崩れて歯周病菌などが増殖すると、唾液とともに気管や気管支粘膜に入ったり、炎症を起こしている歯ぐきなどから血管の中に入って全身に巡ったりするという研究結果・報告が出されてきています。
具体的には歯周病によって、誤嚥性肺炎、脳卒中、心疾患、がん、認知症、糖尿病、動脈硬化、関節リウマチ、早産・低体重児出産などの全身疾患が引き起こされると考えられています。
歯磨きなどでお口の中のケアが十分にできていないと、このように全身に悪影響を及ぼす可能性があるといわれています。
まとめ
お口の中に細菌がいることは決して悪いことではなく、善玉菌が多ければ健康を守る働きをしてくれます。
しかし、口内フローラのバランスが崩れると、歯周病や虫歯を引き起こすだけでなく、全身疾患を誘引する可能性があるため、日頃からお口の中をケアすることが非常に大切です。
もちろん、セルフケアだけでは汚れを取りきれないので定期的に歯科医院の受診も重要です。
良好な口内フローラを保つことで、口臭の改善にも期待できます。現在もこの先も健康でありたいというあなたにとって、この記事が少しでも不安解消に役立てれば幸いです。