喫煙が歯周病を引き起こすメカニズム
世界では約800万人の方が、喫煙が原因で亡くなっているという報告があります。この報告からも、喫煙が身体に悪影響を与えていることは容易に想像できるでしょう。
また、喫煙は口の中にも大きな影響を与えます。その代表が歯周病です。
では、喫煙するとなぜ歯周病が悪化するのか、そのメカニズムをしっかり理解しておきましょう。喫煙をするとタバコの煙の中の有害物質が血液の中に入り、血管を収縮させます。
そして血管が収縮すると、酸素が隅々(末端)にまで行き渡らなくなり、免疫細胞が歯茎の狭い血管を通りにくくなります。そのため、免疫機能がうまく働きません。
一方の、歯周病の原因となる細菌は、酸素が無い環境を好んで生息するという性質をもっており、酸素がない、または少ない環境下では細菌が繁殖しやすいのです。
唾液の中にも口の中の細菌と闘う抗体が存在しますが、タバコの煙によって口の中が乾燥し、抗体の機能がパワーダウン。 唾液が少なくなり、自浄作用が働きにくくなることで歯垢(プラーク)が歯の表面に付着したままとなりやすく、結果的に歯周病のリスクが増加してしまうのです。
つまり、喫煙をすると身体の免疫機能が低下し、唾液の自浄作用の働きが悪化。よって、歯周病の原因となる細菌が増加し、歯周病が進行しやすくなるというわけです。
加えて、口の中がタバコの煙で乾燥するため、タバコの黒いヤニが前歯に付きやすくなり、見た目が悪くなるのも特徴です。
禁煙と歯周病治療は一緒に行う必要あり
歯周病はポルフィロモナス・ジンジバリス(PG)菌やプレボテラ・インターメディア(PI)菌を主とした歯周病原菌による感染症です。 PG菌やPI菌は酸素を好まないため、歯と歯茎の間(歯周ポケット)に付着した歯垢に多数潜伏しています。
歯周病を治す上で必要なことは歯科の専門器具で歯垢を機械的に除去することです。歯ブラシで除去することは難しいですし、禁煙しただけでは治ることはありません。
ここで大事なのは、禁煙をしつつ、歯周病の治療を受けるということです。既に紹介しましたが、喫煙により、歯茎の周りの血管が収縮し、 免疫細胞の働きが抑制されて歯周病原菌が増殖しやすい環境になること、口の中が乾燥し唾液の自浄作用も制限されることが関係しています。
禁煙者と比較し、喫煙者の歯周病治療が上手くいかないケースも報告されているため、禁煙と歯周病治療はセットであることを頭の片隅に入れておきましょう。
喫煙が歯周ポケットの細菌バランスを変化させる
ここからは、喫煙と歯周病の関連性に関する最新の研究論文の内容を一部紹介します。紹介する研究論文のタイトルは、「健康な口から歯周病へ:歯周ポケット内の細菌バランス(細菌叢)を変化させる喫煙の影響」です。
歯周病でなくとも歯周病を引き起こす細菌は少なからず皆さんの口の中にいます。(ミュータンス菌などの虫歯菌も同様に皆さんの口の中にいます)
最近の研究では、単純に歯周病原菌が少ないから良いというわけではなく、良い菌と悪い菌のバランスが大事であるということが報告されています。
それでは、喫煙によって菌のバランスはどうなるのでしょうか?論文の中では喫煙者の歯周ポケットの歯垢を採集し、禁煙後6ヶ月と12ヶ月に細菌バランスを測定した研究結果が記載されています。
禁煙後に歯周ポケットを測定した結果、歯周病を引き起こす細菌が減少し、歯周病を引き起こさないとされている細菌(善玉菌)が増加していました。
さらに、喫煙を止めたことにより、歯周病の発病・進行・歯の喪失リスクが減少するという結果も報告されています。 細菌学のようなミクロの視点でも、禁煙することが歯周病の改善に効果的であることが分かります。
禁煙すれば身体も口も健康に
喫煙が全身だけではなく、口の中にも悪い影響を与えることが理解できたと思います。「百害あって一利なし」という言葉がありますが、喫煙することは皆さんにとって良いことは一つもありません。
歯周病という状態は1日にタバコを数十箱吸っている状態に等しいと言及する方もいます。喫煙による身体への影響はそれだけ大きいことが容易に想像できます。
健康のために禁煙することは大事ですが、歯科医院で現在の口の中の状態を定期的に知ることも非常に大切です。
喫煙をしていることで歯周病が気づかないうちに進行していることは歯科の現場ではしばしば遭遇します。この記事をきっかけに皆さんが禁煙する機会になれば、嬉しい限りです。