歯茎の腫れがおさまりません…

歯茎が腫れているのは歯周病かと思ってセルフケアを徹底したものの、腫れが改善しない…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、歯科医院で定期的に検診を受けているにも関わらず、歯茎の状態が良くならないという場合もあります。

もし、高血圧の治療中でお薬を服用していたら、それは歯周病ではなく「歯肉増殖症」という別の病気かもしれません。

歯肉増殖症とは

歯茎の上皮にある線維性組織などが増殖する病気を「歯肉増殖症」といいます。

主に歯と歯の間の歯茎から徐々に膨れはじめ、歯茎全体に広がっていきます。
表面は硬いものの、弾力性があります。

歯肉増殖症が進行すると、歯と歯茎の境目である歯周ポケットが深くなり、より歯茎が腫れたり出血したりする原因となります。

歯肉増殖症は、原因によっていくつかのタイプに分かれます。

・単純性歯肉増殖症
口呼吸があると発症しやすいとされる歯肉増殖です。
歯茎の腫れは、唇側あるいは舌側の歯と付着していない歯茎に限られています。

・歯肉線維腫症(歯肉象皮症)
上下ともに歯茎全体が増殖します。
過度に増殖するため、既に生えている歯が歯茎によって覆われることもあります。
遺伝が関係しているともいわれています。

再発が起こりやすいため、繰り返し歯茎を切り取る外科的な処置をしなければならない場合もあります。
腫れた歯茎は炎症を起こしやすく、痛みや発赤、出血が生じることがあります。

・薬物誘発性歯肉肥大(薬物性歯肉増殖症)
てんかん、高血圧症、免疫抑制剤などの治療薬の服用を原因として、歯茎が増殖します。

歯周病も歯茎が炎症を起こし腫れる病気ですが、歯周病は悪化すると歯茎が化膿することで腫れてくるのに対し、歯肉増殖症は膿をもって腫れるのではなく、慢性的かつ長期にわたって歯茎が硬く膨れ上がります。

また、歯周病のように細菌感染が原因ではないので、抗菌薬を処方しても効果がなく、歯茎を切開しても膿は出ません。

歯肉増殖症を引き起こす主な薬

歯肉増殖症を引き起こす薬には、どのようなものがあるのでしょうか。

カルシウム拮抗薬…ニフェジピン(アダラート)
高血圧症や狭心症の患者さんが服用することがある薬です。
ニフェジピンのほか、ニトレンジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、ニカルジピンなどを服用した際の副作用として、歯肉増殖症が現れることがあります。

発現率は10~20%
となっており、もし発現した場合はプラークコントロールによる口腔内の衛生状態の改善のほか、歯周外科手術を行なう場合もあります。

抗てんかん薬…フェニトイン
てんかんの治療薬ですが、長期的に服用することで歯肉増殖症にかかるおそれがあります。

フェニトインを服用している方の歯肉増殖症の発現率は約50%もあるといわれていますが、適切な歯磨きなどによって清潔な状態を保っている場合は発現率が低いため、プラークコントロールが重要となります。

免疫抑制剤…シクロスポリンA
臓器移植を受けた患者さんの拒絶反応を抑制する目的などで使用される、免疫抑制薬です。

発現率は約25%ほどです。発現した場合はプラークコントロールが基本となりますが、それでも改善しない場合は全身の状態を考慮し、歯周外科手術を行なうケースもあります。


服用している薬による歯肉増殖症は、歯磨きや日々のセルフケアによってプラークコントロールが適切に行われていると悪化を防げる可能性が高いとされています。

歯肉増殖が認められた場合も、すぐに薬の服用を中止したり歯周外科手術を行うのではなく、お口の中の状態を清潔に保てるよう歯磨き指導などを行います。

歯肉増殖症の対処法

歯肉増殖症に対処するには、プラークコントロール(セルフケアによるお口の中の歯垢の除去)によるお口の中の衛生状態の改善が基本となります。

プラークコントロールは歯茎の炎症や炎症による腫れなどを予防、改善するために不可欠ですが、歯肉増殖を予防することは困難だと考えられています。

そこで、高血圧症や狭心症などの病気に罹患している場合、治療計画や全身状態などを考慮しながら、薬の服用の中止や減量を疾患の担当医に相談する必要があります。
決して歯科医師、患者さんの判断だけで服用を中止しないようにしましょう。

腫れてしまった歯肉を歯周外科手術によって切除する場合も、内科の主治医へ相談が必要な場合があります。

薬剤により増殖した歯肉は、レーザーによって除去することが多いです。
レーザーによる処置内容ですが、切除したい歯肉に局所麻酔を行って、レーザーでの切除を行います。
歯肉を切除した後はそのまま普段通りの生活ができます。2~3週間程度で治癒していきます。

お薬の服薬を中断するのは、病気が進行してしまわないか不安になりますよね。

高血圧治療の主治医の見解によっては、歯茎の腫れが重篤でないと診断した場合、口腔清掃やスケーリングおよびルートプレーニングといったお口の中の基本治療を行うほか、降圧薬の中断が難しい場合は、歯肉増殖の発症率が低いほかのカルシウム拮抗薬への変更などを検討することは問題ありません。
担当医とよく相談して取り入れていきましょう。

歯茎の腫れが気になったら

歯茎が腫れていると思ったら、まずは歯周病やお口の中の疾患の可能性が高いため、歯科医院で診察を受けましょう。

歯肉増殖症の場合も、プラークコントロールなどで改善が見られることがあります。
また、服用している薬がある場合はおくすり手帳を持参し、歯科医師に正確な情報を伝えることによって、より精密な検査、診断を受けられるようにしましょう。

また、歯科で薬の減量や変更などを考慮しなければならないと診断された場合は、主治医にお口の中の症状を伝えて診断を受けるようにしてください。

お口の中の状態を主治医に明確に伝えられるか不安な場合は、歯科医師から主治医へ照会状などを発行してもらえる場合もありますので、歯科医師に相談してみましょう。