腫瘍マーカーとは
身体の中のどこかにがんが発生すると、血液中や排泄物中に、たんぱく質や酵素、ホルモンなどの特徴的な物質が増加します。その物質を腫瘍マーカーといいます。
一言でいうと、「身体のどこかにがんがあるかどうかの目安となる検査の値」です。
腫瘍の種類や発症した部位によって特有の物質が判明しており、血液や尿中に漏れ出した物質の量(腫瘍マーカー量)を測定し検査することを腫瘍マーカー検査といいます。
腫瘍マーカー検査はとても簡便な検査で、健康診断や人間ドッグのオプションで受けられることもあるのですが、腫瘍マーカーだけでは早期のがんを発見しにくく、かなり進行したがんでないと診断ができません。
また、腫瘍マーカー検査だけでは腫瘍の良性・悪性かの判断はできないので、検査の補助的な役割やがんに対する治療効果の測定に利用されます。
腫瘍マーカーはどのくらい種類があるの?
多くの腫瘍マーカーが、がんの可能性を示唆する根拠として使用されています。
ひとつの腫瘍マーカーが複数のがんの可能性を示すことがある一方で、複数の腫瘍マーカーを生み出すがんも存在しており、がんによって上昇しやすい腫瘍マーカーの種類は異なります。
腫瘍マーカーをいくつか組み合わせて検査することが多く、基準値もそれぞれ決められています。
腫瘍マーカーは50種類以上ありますが、ここでは主に7つの腫瘍マーカーや基準値についてまとめたものをご紹介します。
CEA<がん胎児性抗原>
・基準値:5.0ng/mL以下(1ミリリットルの血液中に5ナノグラム以下)
・CEAはがんが存在する可能性を示唆する腫瘍マーカーのひとつです。
大腸がん組織から抽出され、胎児の腸管にも存在を認めらていることが名前の由来です。
がんの早期発見には不向きとされており、すべてのがん患者で異常を見つけられるわけではないので、がんの経過観察、がんの再発や転移の可能性を診断する場合に用いられる検査です。
しかし、個人差が大きく喫煙者や高齢者の方は比較的数値が高くなり、偽陽性となることもあります。
腫瘍マーカーで高い数値を示した場合に疑いのある疾患として、大腸、肝臓、膵臓、などの消化器系がんや、肺がん、胆道がん、乳がん、甲状腺がんなどのでも数値が高くなることがあります。
CEAはがん細胞発現時、転移の有無、腫瘍の大きさなどがんの進行度に比例して数値が高くなる傾向にあります。
AFP <αフェトプロテイン>
・基準値:10.0ng/mL以下(1ミリリットルの血液中に10ナノグラム以下)
・AFPは肝臓がんの存在を示唆する腫瘍マーカーのひとつです。
健康な人の血液中ではほとんど確認ができず、もともとは妊娠初期の胎児の血液中に見られる蛋白質です。肝炎で高い数値を示し、特に原発性肝がんで高い数値の上昇が認められています。
AFPの数値が高くなった場合、肝硬変でがんの合併が考えられる場合の早期発見に役立つとされており、治療経過や効果、予後の推定の評価に用いられます。診断の際にはほかの肝機能検査の数値も踏まえて総合的な判断を行います。
CA19-9 <膵がん、胆のう・胆管がん>
・基準値:37.0U/mL以下(1ミリリットルの血液中に37ユニット以下)
・CA19-9は膵がんや胆のうがん、胆管がんなどの消化器系のがんの存在を示唆する腫瘍マーカーのひとつです。
ほかにも腫瘍マーカーで高い数値を示した場合に疑いのある疾患として、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんなどが挙げられます。
糖鎖抗原の一種であり、がんが発現していない健康な方でも、微量に検出されます。
がんが発現していない状態でも膵管、胆のうや胆管、胃、唾液腺、結腸、前立腺などの上皮細胞と呼ばれる組織に存在しており、これらのがん化により大量に生み出され、血液中の検出値が上昇します。
主に消化器系がんの血清腫瘍マーカーとして広く利用されており、膵がんの診断や治療再発診断のモニターとして用いられています。
CYFRA <サイトケラチン19フラグメント(シフラ)>
・基準値:2.2ng/mL以下(1ミリリットルの血液中に2.2ナノグラム以下)
・CYFRA(シフラ)はサイトケラチン19フラグメントとも呼ばれ、扁平上皮がんや肺腺がんなどの存在を示唆する腫瘍マーカーのひとつです。
肺非小細胞がんでは特異的に検出されることが分かっており、特に扁平上皮がんでは高い陽性率を示します。
病態を的確に反映することができるため、治療効果のモニターとして用いられることが多く、CT検査も併用することでがんを発見できる確率が高くなります。
PSA <前立腺特異抗原>
・基準値:2.7ng/mL以下(1ミリリットルの血液中に2.7ナノグラム以下)
・PSAは前立腺がんの存在を示唆する腫瘍マーカーのひとつです。
ほかの腫瘍マーカーと比較して精度がとても優れており、前立腺がんの早期発見や再発の発見に役立ち、特に50歳以上の方に有効な検査とされています。
ただし、前立腺肥大や前立腺炎などの良性疾患などの場合や、内視鏡カテーテルなどで尿道や前立腺に刺激があった場合も24時間以内に数値が上昇することもあります。
CA125 <卵巣がん>
・基準値:35.0U/mL以下(1ミリリットルの血液中に35ユニット以下)
・CA125は主に卵巣がんの存在を示唆する腫瘍マーカーのひとつです。
ほかにも腫瘍マーカーで高い数値を示した場合に疑いのある疾患として、乳がん、子宮内膜症、大腸がん、膵臓がん、胆のうがんなどが挙げられ、女性特有のがんのリスクに対応している腫瘍マーカーといわれています。
卵巣がんでは約70~80%、特に卵巣漿液性嚢胞腺がんでは約97%の陽性率を示します。
また、膵臓がんや良性の内膜症性嚢腫で50%の陽性率を示します。
しかし、月経時や妊娠初期などホルモンの変動により数値が変動するので生理中は検査を控えた方がよいでしょう。
CA15-3 <乳がん>
・基準値:28U/mL以下(1ミリリットルの血液中に28ユニット以下)
・CA15-3は乳がんの存在を示唆する腫瘍マーカーのひとつで、乳がんの代表的腫瘍マーカーとされています。
ほかにも腫瘍マーカーで高い数値を示した場合に疑いのある疾患として、卵巣がん、子宮がん、肺がんなどが挙げられます。
原発性(はじめにがんが発生した場所)乳がんと比較すると、転移性(ほかのがんから転移した)乳がんや進行性乳がんでの陽性率が高いため、乳がんの再発の予知や転移の検出、治療効果の判定におけるモニターとして用いられています。
再発した乳がんは、肝や骨へ転移が多い傾向にあるため、ほかの検査と組合せて継続測定することが有効です。
腫瘍マーカーだけでがんの診断はできるの?
冒頭でも紹介したとおり、腫瘍マーカーはあくまでも「身体のどこかにがんがあるかどうかの目安となる検査の値」であり、がんかどうかの可能性を判定する目安のひとつでしかなく、値が高いからといって必ずしもがんを発症しているとは限りません。
腫瘍マーカー検査を受けることで、がんを発見するきっかけになるかもしれませんが、実際のところ腫瘍マーカーだけでは診断することは難しく、画像診断等やほかの検査と併用することが一般的とされています。
なぜならば、がん以外の病気からも腫瘍マーカーが生み出されることがあったり、生活習慣やストレスの有無などに影響を受けることがあるとされているからです。
このように、がんがないにもかかわらず陽性反応を示すことを偽陽性といい、偽陽性となる確率は腫瘍マーカーによって異なり、本当にがんを発症している確率はあまり高くないとされています。
腫瘍マーカーは良性の疾患からも産生されるため、
・腫瘍マーカーの値が正常な場合はがんが発症していない・存在していない
・腫瘍マーカーの値が異常(高い)な場合はがんが発症している・存在している
という認識は間違いということです。
また、腫瘍マーカーはかなり進行したがんでないと診断ができず、早期のがんでは血液や尿中に物質が出ていないことが多く、出ていても量が少ないため測定が難しいとされています。
したがって、腫瘍マーカーはがんの再発や治療効果の判定に使用されているものがほとんどだというのが現状であり、がんの判定にはほかの治療との組み合わせ、検査結果、症状などを総合的に見て診断しなければなりません。
腫瘍マーカーはがん発見のきっかけになるかもしれません
腫瘍マーカー検査の結果で正常値より高い値が出た場合は、がんを発症している可能性がありますので、医師の判断を仰ぎ、画像診断や超音波検査などと併せて精密検査を受け、総合的な診断を受けるようにしましょう。
また、高い数値がでなくとも、全身疾患や生活習慣、ホルモンの変動などの影響を受けるので数値が低くても完全にがんの疑いを否定できないということも覚えておくとよいでしょう。
腫瘍マーカー検査を受けたからといって自己判断で安心するのではなく、定期的にがん検診を受け、ご自身の健康維持に努めていきましょう。