口内炎とは

最も多くの人が経験する一般的な口内炎は「再発性アフタ」です。

「アフタ」という言葉は、口内の粘膜にできる5mm~10mmほどの潰瘍を指すものであり、この症状が繰り返し表れる患者さんが多いため、「再発性」という表現が頭についています。

症状が出ている時期には、患部に食べ物が触れる、舌が当たる等すると強い痛みを感じますが、通常は7日~10日程度で自然治癒します。
発生の原因自体は不明ですが、過労、ストレス、睡眠不足といった要因で身体の抵抗力が弱っている時期に、症状が表れやすいとされています。

また、食事の際に誤って口内を噛んでしまったり、歯磨きの時に歯ブラシが粘膜に当たってしまったりして、粘膜が損傷した結果、炎症が起こるケースを「外傷性口内炎」と呼びます。
こちらは発生の原因も明らかであり、粘膜についた傷が治癒すれば、それに伴って痛みもなくなっていきます。

また、単純ヘルペスウイルスによって生じる「ヘルペス性歯肉口内炎」や、夏風邪ウイルスの一種によって引き起こされる「手足口病」といった、「ウイルス性口内炎」に分類されるタイプの口内炎も存在します。

この3つ以外にも、口内炎に似た症状を示す疾患は複数存在します。

類似疾患の具体例と、その症状

ただの口内炎だと思っていたら思わぬ病気の兆候だった、などのケースもある口内炎。
口内炎に似た疾患とその特徴をご紹介します。

口腔カンジダ症

画像引用:公益社団法人 日本口腔外科学会

健康であってもカンジダ菌はお口の中に存在しますが、身体の免疫力低下すると感染を引き起こします。
舌や頬といった口腔粘膜に白い苔のような物質が張り付き、剥がすと腫れ・出血・痛みといった症状が表れます。

それに加えて、舌に痛みや違和感が生じたり、味覚異常を引き起こしたり、唇の両端が赤く腫れあがったり切れたりする可能性もあります。
小さな口内炎のような発赤が見られるケースもあります。

手足口病

画像引用:公益社団法人 日本口腔外科学会

その名の通り、主に手、足、口の中といった部分に水ぶくれのような赤い発疹ができる、ウイルス感染によって引き起こされる疾患です。
手足の発疹には、痛みやかゆみが伴います。その発疹自体は1週間程度でなくなりますが、38℃以下の微熱が出る場合もあります。

意識障害が生じたり、嘔吐が繰り返される場合は、重篤な合併症を引き起こしている可能性もあります。
感染者の80%以上が小児であり、時期としては7月に感染のピークを迎えます。
プール熱(咽頭結膜熱)、ヘルパンギーナと共に夏風邪の一つとされています。

ヘルペス

画像引用:公益社団法人 日本口腔外科学会

ヘルペスウイルスが、皮膚、口、唇、目といった箇所に感染することで起こる病気です。
患部に違和感・かゆみが生じてから半日程度で赤く腫れていき、2~3日後には痛みを伴う小さな水ぶくれが生じます。

痛みによって会話や食事が困難になることも。
初めて感染した際は無症状であるケースが多いですが、倦怠感や高熱などの症状を伴う場合もあります。

ヘルペスウイルスは症状が治まった後も体内に潜みます(潜伏感染)。
身体の抵抗力が落ちてくると再び感染症を引き起こすため、再発率が高いという点にも留意が必要です。
ただ、再発時は小さな水ぶくれができるだけといった、軽い症状にとどまることが多いとされています。

ヘルパンギーナ

画像引用:公益社団法人 日本口腔外科学会

エンテロウイルスやコクサッキーウイルスAに感染することによっておこる、6月から初夏にかけて流行し、乳幼児に多く見られる、夏風邪の代表例です。

3~6日の潜伏期間を経て、39℃以上の熱が1~3日続くほか、のどが赤く腫れ、小さな水泡も多く生じます。
その水泡は2~3日で潰れ、黄色い潰瘍となります。上顎の裏側や喉側に水泡が生じることが特徴です。

高熱の影響で熱性けいれんを起こす可能性があるだけでなく、のどの痛みが強いが故に、食事や飲み物の摂取の妨げにもなります。
その結果として、脱水症状を引き起こす要因となるケースもあります。

天疱瘡、類天疱瘡

天疱瘡は、自身の抗体によって引き起こされる、自己免疫性水疱症です。国の指定難病の一つです。

基本的には、口内の粘膜に痛みを伴う水疱やびらんが生じる「尋常性天疱瘡」と、頭、胸、背中といった箇所に、赤い発疹やびらんが生じる「落葉状天疱瘡」に二分されます。
口内炎に類似した症状が見られるのは、前者の「尋常性天疱瘡」です。

類天疱瘡は、名前こそ類似しているものの、先述した天疱瘡とは異なる病気です。

四肢等に紅斑、水疱、びらんが生じる「水疱性類天疱瘡」に分類されるケースが多いですが、場合によっては、口腔粘膜や眼の粘膜に水疱が発生する「粘膜類天疱瘡」という症状もみられます。

口内炎に近い症例となるのは、こちらの「粘膜類天疱瘡」となります。

梅毒

画像引用:厚生労働省

梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌に感染することで生じる疾患です。
また、妊娠中の母親が感染した場合は、胎児に感染して先天性の梅毒が引き起こされる可能性もあります。
近年、男女ともに感染率が増加しており、20~24歳の女性が最も罹患率が高くなっています。

感染してから1か月後くらいに口を含む感染部位に潰瘍やしこりが生じ、症状が進むと全身に赤い発疹やぶつぶつが生じます。
これらの症状は数週間で治まりますが、原因となる細菌は体内に潜伏したままであり、そこから数年後には体中に腫瘍が生じていきます。

この段階で治療がなされない場合は、全身の臓器に障害が広がっていく危険性があり、早期の治療が重要です。

ベーチェット病

トルコの医師の名を取って病名が付けられた、原因不明の疾患です。

「アフタ性潰瘍」と呼ばれる、口の粘膜に生じる、痛みを伴った小さな口内炎をはじめ、外陰部の潰瘍、皮膚のしこり、発疹、眼症状といった症状が発生します。
口腔粘膜には、米粒大の白い口内炎が生じます。

皮膚には皮疹が発生しますが、眼においては眼痛や充血に加え、強い光を浴びると痛みや不快感が生じ、最悪の場合は失明に至る可能性もあります。

帯状疱疹

水痘(みずぼうそう)を引き起こす原因となる「水痘・帯状疱疹ウイルス」が、ストレスや疲労といった要因によって体の免疫力が下がったタイミングで、再び活発となることで発症する病気です。

頭部、顔、胸、背中、腹部といった箇所の、左右どちらかに神経痛のような痛みが生じます。
その後に赤みのあるぶつぶつした発疹と水ぶくれが文字通り帯状に生じて、徐々に痛みが増していきます。

発熱、頭痛、リンパ節の腫れといった症状が生じる可能性もあり、重症化すると身体の広い範囲に発疹が現れ、難聴、視力障害、顔面神経の麻痺を引き起こす可能性もあります。

まとめ

口内炎が長期にわたって治癒しない場合は、歯科もしくは口腔外科を受診し、正確な疾患名を知り適切な治療を受けたほうがいいでしょう。

口内炎だけでなく、感染症に罹患している可能性もあるため、周囲への感染などの対策など、細心の注意を払う必要があります。

これまで紹介してきた通り、口内炎と見分けのつきづらい疾患は、数多く存在しています。
自分自身で「この病気だろう」と決めつけることなく、さまざまな可能性を考慮したうえで、実際のケースに適した治療を行っていきましょう。