歯周病菌はがんになる確率を高めてしまう怖い菌

歯周病とは、そもそもどのような病気なのでしょうか。

歯周病は、細菌の感染による炎症によって引き起こされる、感染性疾患です。

虫歯も細菌による感染で生じる病気ですが、虫歯は歯そのものが壊されていくのに対し、歯周病は細菌が歯と歯肉の間で繁殖することで感染し、歯の周囲の組織が壊されて、歯を支える骨も溶けて最後は歯が抜け落ちてしまいます。

また、40歳以上の日本人では、約80%が歯周病にかかっているともいわれており、本来は多くの人にとって口腔環境の改善が必要だといえるでしょう。

しかし、歯周病という病気は初期段階は自覚症状が少なく、静かに進行するためか、あまり重大なことには思われないかもしれません。
それは、目では見えにくいお口の中の病気と思われていることにも起因しているのではないでしょうか。

ところが、歯周病菌とあらゆる全身疾患との関連性が報告されており、中でもがんについては、歯周病菌が発症リスクの上昇と関係しているという調査結果も出ています。

歯周病にかかっていると歯科医師に診断を受けた方や、歯周病の疑いがあるという方も、こうしたリスクの可能性も知っていただきたいと思います。

血液に入り込む歯周病菌は全身にくまなく運ばれてしまう

歯と歯肉の間にできる溝「歯周ポケット」に歯周病菌が入り込むと、そこで炎症を起こして血液に乗って全身を駆け巡ってしまいます。

これが、体中のあらゆるところに悪い影響を及ぼす可能性があるのです。
歯周病菌が血管や臓器などに到達すると、そこでも炎症を引き起こします。

歯周病菌が取り付きやすい部位として、食道があります。食道はお口のすぐ近くにあるため、歯周病菌が粘膜に付着し、感染しやすくなります。
これが原因で、食道がんのリスクを高める可能性があります。

このように、歯周病菌は口内から血管を通って、体内のどこにでも到達する可能性があります。
様々な臓器で、がんなどのリスクを上昇させることが考えられます。

歯周病患者は肺がん、大腸がん、膵臓(すいぞう)がんの発症率が高い

重度の歯周炎にかかった人は、歯周炎がない、または軽度の人と比較してがん発症リスクが24%も上昇するという研究結果が残っています。

また、重度の歯周炎を患ったり、過去に歯周治療をした形跡があったりする歯がない人では、がん発症のリスクが28%上昇するという報告もあります。

 性別という観点で見ると、女性はあらゆる種類のがんを発症するリスクが14%高いということがいわれています。
女性で歯周病に罹患しているという方は、がんの発症リスクにも注意した方がよいかもしれません。

それでは、歯周病にかかっている人は、どのようながんにかかりやすいといわれているのでしょうか。

歯周病にかかっている人で、がんのリスクがもっとも高い部位であると観察されたのは肺がんです。
その次に高いのが大腸がんでした。(参考:重度の歯周病とがんリスクの関連にさらなるエビデンス

このほかに留意しておきたいのが、膵臓がんのリスクです。
歯周病を引き起こす細菌で代表的なものとして挙げられるのが、ポルフィロモナスジンジバリスとアグリゲイティバクターアクチノミセテムコミタンスです。

これらの保菌が血液の流れに乗って体内のあらゆるところへ運ばれることにより、膵臓がんのリスクが高くなる可能性が指摘する論文(ヒト口腔マイクロバイオームおよび膵臓癌の予測リスク:集団ベースのネスト化された症例対象研究)も発表されています。

歯がないとバランスの良い食事をするのが難しい

歯周病は歯の周囲にある組織を壊していく病気です。
歯を支えている骨も例外ではなく、歯周病の進行と並行して骨も溶けていき、グラグラしている歯が最後は抜け落ちてしまいます。

また、自然に抜け落ちなくても、重度の場合は抜歯せざるを得なくなるケースもあります。
もし歯がなくなってしまうと、義歯を入れたとしても硬いものを噛むのが辛くなり、うどんやパスタといった麺類や、軟らかいパンなどを好んで食べるようになります。

こうしたものばかり選んでいると偏食になり、摂取できる栄養も偏ってしまいます。
また、噛むのが辛いと食べることに疲れてしまい、食欲自体が落ちてしまうこともあります。

噛むのが辛くなるということは、食べ物を噛む回数も減ってしまうことにつながります。
そうすると食べ物が大きいまま飲み込むことになり、食べ物を溶かしたり栄養を吸収したりする胃や腸に負担がかかり、消化吸収がスムーズでなくなってしまうこともあり得ます。

こうした内臓への負担が、がんを含むあらゆる病気に悪い影響を及ぼす可能性があるのです。

歯周病予防はがん予防になる

歯周病予防・治療は、がん予防につながる可能性が示唆されています。

ご家庭での日々の歯磨きはもちろんのこと、定期的にかかりつけの歯科医院で診てもらい、歯周病のチェックやクリーニングを受けてメンテナンスをすることが大切です。
お口の中をいつもきれいに保ち、長く健康で過ごすための土台を作りましょう。

歯周病予防はがん予防にもつながっていきます。
また、糖尿病などの生活習慣病のコントロールにも寄与します。

正しい歯磨きと定期的な歯科検診で歯周病予防をしっかりやりましょう。