前がん病変って何?

前がん病変とは、その時点ではまだがんではないが、将来的にがんになる可能性が極めて高い病変(病的な身体の変化)のことです。

前がん病変の時点で早期に発見ができれば、速やかながん治療を行うことが可能です。早い段階でのがん治療は、お口の機能を失うリスクを減らし、身体への負担の少ない方法で行うことができるかもしれません。
 口の中の代表的な前がん病変に「紅板症」と「白板症」と呼ばれる2種類があります。

口腔がんとは

口腔がんとは、舌や歯ぐきなど「お口の中にできるがん」のことです。
口腔がん・咽頭がんの患者さんは年間で2万2,500人(2019年)おり、全てのがん患者さんの総数中1~2%は口腔がんの患者さんです。
口腔がんの5年生存率は60~80%と言われており、早期発見ができれば命に関わることは少ないといえます。

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紅板症


引用:徳島大学病院 がん診療連携センター

後述する白板症と比べて発生頻度は低いですが、紅板症の50%程度が将来的にがんになると言われています。 紅斑症(erythroplakia)や紅色肥厚症(erythroplasia)とも呼ばれます。

健康な粘膜との境目が比較的はっきりとわかる鮮紅色(明るく鮮やかな紅)の斑点やただれを患者さんご自身でも確認することができます。 ほとんどの紅板症が平らなものですが、一部腫れる、硬くなる症状がみられる場合があります。

紅板症は健康な粘膜との差がわかりやすく、患者さん自身でお口の変化を発見することができます。やけどや刺激による赤みと迷ったら2~3日経過を見てみましょう。

食事や歯ブラシが当たるなど刺激が加わった時に痛みを感じることも紅板症の特徴です。紅板症が発生する正確な原因はわかっていませんが、合わない入れ歯や被せ物による慢性的な刺激やアルコール、タバコなどが原因ではないかと推測されています。
紅板症は、男性女性で罹患率に有意差はなく、50代以上の方が多く罹患しています。

紅板症は、舌と歯ぐきの間の部分(口腔底)や舌、歯ぐきなどお口の中の粘膜に発生します。お口の中を鏡で見るときは、歯を見る方が多いかと思いますが、お口の中の粘膜も変化がないか確認してみましょう。

紅板症は稀に白い斑点やびらんといった症状が同部分に出ることがあります。白い斑点が見られる場合はすでにがん化している可能性が高いため、早急に歯科や口腔外科を受診してください。

白板症


引用:徳島大学病院 がん診療連携センター

紅板症と比べて発生頻度は高いですが、がん化する確率は低く、白板症の5%程度が将来的にがんになると言われています。

お口の中の粘膜にみられる板状、もしくは斑点状の白い病変です。
白板症の場合、白い部分を歯ブラシや舌ブラシでこすっても取り除くことができません。(こすって取り除ける場合は、カンジダ症という別の病気の可能性があります。)

白板症も紅板症と同じように、頬の内側や舌、舌と歯ぐきの間(口腔底)、お口の天井部分(軟口蓋)などお口の中の本来角化する(硬くなる)ことのない粘膜に発生します。
舌に白板症が発生した場合は、他のお口の中の粘膜に発生した場合と比べてがん化する確率が高いと言われています。
白板症は50~60代の男性に好発します。

白板症も、発生の明確な原因は解明されていませんが紅板症と同じように、合わない入れ歯や被せ物による慢性的な刺激、飲酒、喫煙などとされています。
また、その他に

・カンジダ症

・ビタミンAやBの欠乏

・貧血

・糖尿病

・高脂血症

・エストロゲンの欠乏

などが報告されています。

びらんや潰瘍ができていたり、食事や歯ブラシがあたることにより痛みを感じる場合はすでにがん化している疑いがあるため、早急に歯科や口腔外科を受診してください。

前がん病変の治療方法

前がん病変はがんではありませんが、がん化する可能性があるため治療が必要です。
生検※を行い、がん化しているかどうかを検査します。がん化している場合は早急にがんの治療を行います。
がん化していない場合も、将来的な発がんを予防するため、外科的に発生部位を切除することが多いです。

白板症の場合は、ビタミンやエストロゲンの不足を補ったり、糖尿病や高脂血症の治療を行うことで改善が見られることもあります。

前がん病変は、発生部位を切除した後も再度前がん病変やお口の粘膜に発生するその他の病気が発生しやすいといわれています。長期的、継続的な経過観察が必要です。

※生検とは
病気診断のために、病変している部分を一部採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査の事を生検(生体組織検査)といいます。
がんであるかどうか、悪性か良性かなど病変についての診断を行う方法です。

お口の中の変化に気が付いたら

お口の中の違和感、変化に気が付いたらそのまま放置せず、早めに歯科あるいは口腔外科を受診してください。

お口の中に発生する病気はさまざまあり、見分けることが困難な場合があります。痛みがないから大丈夫、広がっていないから大丈夫というのは重大な病気を見落とし、進行させてしまう原因となってしまうかもしれません。

お口は食事や呼吸など、全身の健康を保つうえで重要な役割を担っています。全身の健康のためにも、お口の異変に早く気が付くことができるよう、定期的に歯科で検診を受けましょう。