妊婦さんが口臭がきつくなる(強くなる)原因

妊婦さんの口臭が強くなる原因は何でしょう。主な原因3つを紹介します。

食生活の乱れ

食生活の乱れ

妊娠初期の80%程度に出現する「つわり」が原因により、口にできる食べ物が限定的になることもあります。また、妊娠により体が消費する糖分の消費量が増加し、空腹を感じやすくなります。

妊娠特有のつわりや空腹により、口にできる食べ物が糖分を多く含むものに偏ると、歯周病菌が潜む歯垢(プラーク)の蓄積を促進し、歯周病による口臭の原因になり得ます(糖分を好む虫歯菌の増加の原因にもなるので、虫歯リスクも上昇します)。

特に、妊娠されてから親知らずの歯茎の腫れや痛みを訴える方が多くいらっしゃいます。親知らずは奥に位置し、ただでさえ磨き残しが多く、歯茎が腫れるなどのトラブルが起きやすい場所です。 その上、妊娠の影響で唾液が減少したり体調不良で口腔ケアがおろそかになってしまうと、妊娠中に親知らずの痛みや腫れが出やすくなるのは当然の結果です。

また、空腹時の胃のムカムカ・吐き気を緩和するために食べ物を頻回に摂取する「食べつわり」が出現する場合も、お口の中の環境が悪くなる傾向があります(妊娠中に体重が増えることは、妊娠高血圧症候群や子宮外妊娠などの要因にもなります)。

※つわりは妊娠14週ごろに50%、妊娠22週ごろになると90%の確率で症状がおさまります。

唾液の減少

唾液の減少

妊娠による女性ホルモン(エストロゲンなど)のバランスの変化、出産に対する不安やストレスの影響により、サラサラとした唾液の分泌が減ります。 唾液にはお口の中の細菌や食べかすを洗い流す自浄作用や細菌と戦う免疫機能があるのですが、サラサラの唾液が減少すると歯周病原菌などの菌がお口の中に増殖するため、口臭の原因になります。

また、歯に付着したプラーク自体からも硫黄系の臭いが放たれているので、歯周病でなくてもお口の中の清掃や唾液の分泌が不十分であればプラークが蓄積し口臭の原因となります。

女性ホルモンが大好物な歯周病原菌の増加

女性ホルモンが大好物な歯周病原菌の増加

歯周病原菌のプレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)は女性ホルモンを餌にします。 女性ホルモンが多く分泌される妊娠期に増殖しやすく、歯と歯茎の間から出てくる滲出液(しんしゅつえき)には女性ホルモンが含まれるため、口腔内に流れ出て、プレボテラ・インターメディアの餌となり、歯周病による口臭の原因になります (一説によると、妊娠時には5倍増殖すると言われています)。

その他、妊娠後に母体の抗体が胎児を攻撃しないようにコントロールされるため、免疫応答が弱くなり、口の中の細菌が増殖しやすいなどの説もあります。

妊娠中および産後の血中女性ホルモンの変動

妊娠初期・中期・後期・産後での口臭の変化

妊娠初期・中期・後期・産後での口臭の変化

妊娠の時期に口臭が強くなる原因は理解できたと思いますが、妊娠の時期や出産後で口臭に変化はあるのでしょうか。妊娠中は女性ホルモンが増加の一途をたどり、出産後は女性ホルモンの分泌が大きく減少します。 妊娠中は女性ホルモンを餌とする歯周病原菌の増殖が促進される環境下より、口臭が増加するリスクが高いです。

一方、出産後になると女性ホルモンの分泌が一時的に皆無になるため、女性ホルモンを餌とする歯周病原菌の増殖が抑えられます。口腔ケアをしっかりと行うことで口臭の改善につながっていくでしょう。

いずれにせよ、妊娠中も出産後も口腔ケアは口臭の悪化を防ぐために重要です。

妊婦さんに効果的な口臭対策

妊娠中は女性ホルモンの量がずっと多い状態であり、サラサラした唾液が減少するため、お口の中の歯周病原菌が増殖しやすい環境が続き、何も対策をしなければ、妊娠中に口臭で悩まされるでしょう。では、どのような口臭対策が効果的なのでしょうか。

丁寧なセルフケア

丁寧なセルフケア

妊娠後は調子が良い時はこまめにブラッシングをするように心がけましょう。フロスや歯間ブラシなどのツールも活用して丁寧に磨くとなお良いです。つわりで体調が悪くブラッシングが難しい場合は、少なくとも洗口液でのうがいはしましょう。

また、つわりがある時に歯磨きをすると喉を物理的に刺激して吐き気を催すことがありますので、吐き気を誘因しない歯磨きのコツを紹介します。

まず、歯ブラシはヘッドの小さいものを購入するようにしましょう。歯磨き粉の種類はミント系を選択します。磨く際の姿勢ですが、首を下に曲げて磨くと唾や歯磨き粉が喉の奥に流れにくくなるため嘔吐反射を抑制する効果があります。

その他できる歯磨きのコツとして、リラックスできる環境下での歯磨きもおすすめです。入浴しながら、テレビや動画を観ながら、好きな音楽を聴きながらの歯磨きも試してみましょう。

お口の体操

お口の体操

唾液腺は筋肉の周囲に位置するので、お口を動かすことにより、唾液の分泌が促されます。唾液の分泌はお口の中の菌を減らし、口臭を抑える効果が期待できます。大きな唾液腺は耳の前と顎下に位置しているので、手指でマッサージをすることも効果的です!

歯科医院でのプロフェッショナルケア

セルフケアだけではご自身がうまく磨けていない場所を完全に把握することができません。定期的な磨き残しのチェックとクリーニングを受けることで、お口の環境を良好に保つことができます。

妊娠中に限らず、産後も子育てで大変となりお口の中への意識がおろそかになりがちです。妊娠中に歯科医院を受診する時期としてお勧めなのは、つわりが少なくなる安定期(妊娠中期・妊娠5ヶ月~7ヶ月頃)です。

妊婦歯科検診の活用

妊婦歯科検診の活用

妊婦さんを対象にしている妊娠歯科検診を受けることもおすすめです。自治体によっては費用の一部負担があり、無料になっている自治体もあります、詳しくは問い合わせましょう。

妊婦歯科検診を受ける時期としてお勧めなのは、上記の項で紹介したように妊娠の安定期です。妊娠中の歯科治療はストレスになりやすく、つわりのひどい妊娠初期での歯科受診は切迫流産の可能性のある不安定な時期ですし、 妊娠後期では陣痛の誘発や歯科治療時の仰向けによる低血圧症が起こり得る時期なので、妊娠安定期での歯科受診が最も適しています。

まとめ

妊娠中は女性ホルモンの量が増加し、女性ホルモンを餌とする歯周病原菌が増殖します。
また、女性ホルモンは自律神経をコントロールしており、ホルモンバランスの変化の影響でサラサラとした唾液の分泌が減少し、お口の中の細菌や食べかすを洗い流す効果が弱くなります。

さらに、妊娠中のつわりなどの影響で体調不良になり、お口の中のケアが滞ってしまい、結果的に妊娠中の口臭につながります。

お口の中の環境を整えるために、妊娠中のセルフケアを頑張り、妊娠安定期に歯科を受診することも大切ですが、妊娠する前からお口の中に気を配ることも非常に大切です。

また、お口の中に何かトラブル(虫歯や歯周病など)を抱えているかを定期的に診てもらう場所が歯科医院であり、本来の役割でもあります。虫歯や歯周病にならないように歯科医院を日常的に利用することを強くお勧めします。

胎児への影響を懸念してレントゲン撮影に強い抵抗を感じる方がいらっしゃいます。歯科のレントゲン撮影自体は被曝量が少なく(年間平均被曝量のの1/100以下であり)、鉛の防護エプロンを装着して撮影するので、胎児への影響はほとんどありません。

レントゲンを撮影することでお口の中の状況がより細かく分かることもあるので、胎児への悪影響を及ぼすリスクよりレントゲンを撮影するメリットが高いのであれば、撮影に同意されることをお勧めします。

本記事を通じて、これから妊娠を考えている方や既に妊娠中の方々の参考になれば、嬉しい限りです。