入れ歯を安定させる「磁性アタッチメント」とは
歯を失い、入れ歯を作ったけれど安定しなくて辛い思いをしたことはありませんか?
どうにかして入れ歯を安定させたいと思ったことがある方も少なくないはず。
「磁性アタッチメント」とは、自分自身の歯の根の上に磁石を装着して入れ歯を安定させる材料です。
マグネットデンチャー、磁性アタッチメントデンチャーなどとも呼ばれています。
入れ歯を支えている歯の根に磁石とくっつく素材である磁性ステンレス(キーパー)を取り付け、入れ歯には歯に取り付けたキーパーとくっつく磁石(磁石構造体)を取り付けることで、歯と入れ歯の間に磁力が働き、入れ歯が安定する仕組みです。
自分自身の歯が残っていない場合はインプラントを埋め込み、インプラントに磁性ステンレス(キーパー)を装着する方法もありますよ。
現在、入れ歯が安定しないことにより、歯茎が痛い、物が食べにくいなどがある場合は、磁性アタッチメントを活用した入れ歯を使用することで解消することができるかもしれません。
しかし、これまで磁性アタッチメントは公的医療保険が適用されず、自費診療として高い費用がかかってしまっていました。
磁性アタッチメントが9月から保険適用に!
2021年6月23日の中央社会保険医療協議会にて、ついに磁性アタッチメントを用いた入れ歯治療にも公的医療保険が適用されることが決定されました。
現在(2021年8月執筆時点)は(株)フィジカの「フィジオマグネット」という磁性アタッチメントのみ公的医療保険適用となっていますが、大きな一歩と言えるでしょう。
公的医療保険の適用開始は2021年9月からなので注意してくださいね。
9月前に磁性アタッチメントを活用した入れ歯の治療を進めている場合は自費診療となります。
また、自費診療であるインプラント治療を行った後に磁性アタッチメントを取り付ける場合、自費治療の一環とみなされ公的医療保険は適用されません(※)。
公的医療保険対象の磁性アタッチメント以外を使用する場合は自費診療となりますので、公的医療保険の適用範囲内で磁性アタッチメントを用いた入れ歯治療を受けたい場合は担当の歯科医師に相談してみてくださいね。
※公的医療保険適用のインプラント治療を受けている場合は、磁性アタッチメントも公的医療保険の対象です。
磁性アタッチメントはどんな入れ歯にも付けられる?
残念ながらすべての入れ歯に磁性アタッチメントを取り付けることができるわけではありません。
磁性アタッチメントは、自分自身の歯の根が入れ歯を支える土台として1本以上残っている場合に取り付けることができます。
すべての歯を抜いて総入れ歯にしている場合や、自分自身の歯の根を利用できない部分入れ歯などを装着している場合は、磁性アタッチメントを取り付けることはできません。
その場合はインプラントを埋入してインプラントに磁性アタッチメントを取り付けるなどの方法をとる必要があります(公的医療保険は適用されません)。
そのほかにも、歯の根が割れてしまう恐れがある場合や、歯周病の進行などにより入れ歯を支えるための力が足りないと診断された場合には磁性アタッチメントを取り付けることが難しいです。
磁性アタッチメントのメリット・デメリット
磁性アタッチメントは入れ歯を安定させることができるという大きなメリットがありますが、実はデメリットもあります。
磁性アタッチメントのメリット、デメリットについて詳しく確認しておきましょう。
磁性アタッチメントのメリット
・入れ歯が安定する
・強い力で噛むことができる
・従来の入れ歯に比べ、よりフィットする
・金属のバネを使用しないで済む場合がある
・入れ歯の大きさを小さくできることがある
・入れ歯の取り外しが簡単
・お手入れが簡単
磁性アタッチメントのデメリット
・歯の根が割れる・欠ける可能性がある
・歯がないと装着できない
・磁気アレルギーの方は適用できない
・MRIの撮影を断られることがある
磁性アタッチメントのMRIへの影響は?
MRIは磁力を利用してヒトの身体の内部の情報を得る装置です。
そのため磁石や磁力の影響を受けやすく、磁性アタッチメントを装着しているとMRIの撮影ができないと考えられることもあるようです。
しかし磁性アタッチメントとMRIの安全性試験の結果、磁性アタッチメント治療を受けていてもMRIの撮影は可能とされています。
入れ歯に取り付ける磁石(磁石構造体)はMRIの影響を受ける可能性が高いため、撮影室に入る前に外しましょう。
撮影室にも持ち込まないようにしてくださいね。
磁石の付いた入れ歯を装着したままMRIを撮影してしまうと、入れ歯に取り付けた磁石の磁力が低下・喪失してしまったり、MRIの磁力に引き付けられて入れ歯が飛び出してしまう、外れてしまう可能性があります。
お口の中を傷つけてしまうこともあるので注意してくださいね。
気になるのは歯の根に装着して取り外しができない磁性ステンレス(キーパー)ですが、磁性ステンレス(キーパー)は磁石ではないため、MRI撮影の影響は受けないとされています。
ただし、磁性ステンレスが外れかけている場合はMRIの磁力に引き付けられ、完全に外れてしまうことがあります。
事前に歯科医院できちんと装着されている状態かどうかのチェックを受けてくださいね。
一方で、MRIの診断結果に磁性ステンレスが少なからず影響を及ぼすことは避けられないともされています。
影響は撮影装置の性能によって左右されますが、磁性ステンレスからおよそ4~8㎝の範囲でアーチファクト(散乱線やノイズ。MRIでの正しい診断を阻害してしまう)が発生します。
そのため、口の中や舌、歯茎、顎の骨、咽頭など、磁性ステンレスから近い部分をMRI撮影したい場合は磁性ステンレスを外す必要があるかもしれません。
脳ドックや口周りから遠く、干渉してしまう範囲外の場合は磁性ステンレスを外す必要はないことがほとんどです。
「磁性ステンレスを外してきてください」と、MRIの検査技師や担当医師から説明された場合は、まずは磁性アタッチメント治療を行った担当医に相談してくださいね。
磁性ステンレスを外すには歯の根に負担がかかり、最悪の場合は歯の根を抜かなくてはいけなくなることもあります。
「外して再度装着すればいいや」とは思わず、本当に外す必要があるのかよく確認してみましょう。
磁性アタッチメントの価格はいくら?
公的医療保険を適用しての費用はまだ正確には発表されていませんが、資料によると、
・磁石構造体…7700円
・キーパー…2330円
・歯の根や入れ歯に取り付ける費用…5320円
とされています。
そのうちの3割(公的医療保険適用治療の患者負担割合による)が患者さんの負担額のため、約5000円程度の負担で受けられるようになるかもしれませんね。
(※これは磁性アタッチメント取り付けに関する治療の費用のみであり、また、正式に決まったものではありません。)
磁性アタッチメントを取り付けるために入れ歯の再作製が必要な場合など、別途費用がかかる可能性もあります。
一方、自費診療の磁性アタッチメント治療での費用は10万円台~70万円以上と幅広く、高額です。
これは、磁性アタッチメントの取り付けだけでなく、よりお口にフィットする入れ歯作製費用も含まれているためです。
まとめ
磁性アタッチメントは入れ歯の安定を高め、より噛みやすくなるほか、入れ歯のサイズを小さくすることができたり、バネをなくすことで見た目をよくすることができるなどメリットが多くある治療です。
入れ歯の下に歯の根が残っている方は、保険での磁性アタッチメントを活用した入れ歯を一度検討してみてはいかがでしょうか。
入れ歯が安定することで、今よりも食事や会話が楽しめるようになるかもしれませんよ。
公的医療保険が適用される磁性アタッチメントはメーカーや種類が限られています。
保険適用外のメーカーを使用している歯科医院では、磁性アタッチメント治療に公的医療保険が適用されないため注意してくださいね。