歯科衛生士とは?
歯科衛生士って何?と聞かれた時、私は「歯科医院専門の看護師のようなもの」と答えています。
正確には看護師とは異なるのですが、イメージがしやすいのではないでしょうか。
歯科衛生士は、生涯に渡って「美味しく食事をする」「楽しく笑う・会話をする」など生き生きとした生活を送るために、自分自身の歯やお口の健康を守るための仕事をしています。
近年では、まだまだ少ないですが男性の歯科衛生士も増えてきており、男女ともに活躍できる職業です。
「歯科診療補助」「歯科予防処置」「歯科保険指導」の3つに特化した医療従事者が歯科衛生士なのです。
詳しい仕事内容は下記でご紹介しているので、ぜひ読んでみてくださいね。
歯科衛生士は国家資格
画像は筆者の実際の歯科衛生士免許証
歯科衛生士になるには、国家資格の取得が必要です。
正式名称は「歯科衛生士免許」であり、合格すると画像のような免許証をもらうことができます。
歯科衛生士法という法律で定められた年月の間勉強をしたあと、国家試験を受けて歯やお口を中心に健康を守るための技術と知識があると認められると、歯科衛生士になることができるのです。
歯科衛生士のなり方は後ほど詳しくご紹介します。
歯科衛生士の国家資格は合格率が比較的高く、近年は受験者の90%以上が合格しており、毎年約6千人以上の歯科衛生士が誕生しています。
歯科医師との違い
基本的に歯科衛生士は歯科医師の指示がなければ、医療行為を行うことはできません。
歯科医師の指示があれば一定の範囲の医療行為が可能になりますが、歯を削って虫歯の治療をする、インプラント埋入をする、被せ物をセメントで装着するなどの行為はできません。
歯科衛生士は、元に戻すことができない医療行為はできないのです。
また、歯科医師は自身で患者さんの状態を診察・診断し、患者さんの同意を得られれば治療を行うことができますが、歯科衛生士は診断することはできません。
歯科助手との違い
歯科助手の仕事は主に、受付や予約管理、歯科医師・歯科衛生士のアシスタント、その他歯科医院の雑務(器具の洗浄や必要品の発注など)です。
歯科衛生士が国家資格なのに対し、歯科助手は公的な資格はありません(民間資格は数種類あります)。
従って、歯科助手は医療行為はできないのです。
歯科衛生士とは異なり、患者さんのお口の中を触る行為は違法とされているのです。
もちろん、歯石を除去することや、虫歯予防のための処置もできません。
患者さんからは歯科衛生士と歯科助手の見分けは付きづらいですが、実は大きな差があるのです。
資格の有無は、行える業務の範囲も違いますし、再就職のしやすさにも影響してきますよ。
お給料に関しても差があることが多いようです。
歯科衛生士の仕事内容は?
歯科衛生士の就職先は歯科医院だけではありません。
保健所や歯科関連企業、社会福祉施設、介護保険施設、地域包括支援センターなどさまざまです。
歯科医院・大学病院
歯科衛生士の就職先はさまざまですが、多くの歯科衛生士は歯科医院(診療所)や病院・大学病院で働いています。
歯科医院での仕事は「歯科診療補助」「歯科予防処置」「歯科保健指導」の3つが大きな内容です。
歯科医師のサポートや、歯周病の検査、歯茎より下の歯石の除去(スケーリング・ルートプレーニング)、ホワイトニングや仮歯の取り外しなどの「歯科診療補助」。
いわゆる歯のクリーニングや虫歯予防のためのフッ素の塗布などの「歯科予防処置」。
歯磨きの指導や禁煙の指導などの「歯科保健指導」です。
歯科医院ではそのほかにも、歯科医師のサポートや患者さんに使用する器具の準備や片付け、予約の管理など歯科医療業務以外の仕事を任される場合もあります。
大学病院では、入院患者さんのお口のケアなども行います。
歯科関連企業
歯科衛生士の中には、歯科に関する物事を取り扱う企業で働く歯科衛生士もいます。
私は以前は歯科医院勤めでしたが、現在はこれに当てはまりますね。
歯科衛生士としての知識を活かし、歯科サイトの運営にかかわることで皆様のお口の健康を増進し、さらには全身の健康に繋がるようにと活動をしています。
他にも、歯磨き粉や歯ブラシを作る企業や歯科医院で使う材料を作成する企業で、歯科衛生士としての知識を活かして働いている方などさまざまです。
保健所
保健所や保健センターでも歯科衛生士は活躍しています。
例えば1歳児検診や3歳児検診での歯磨き指導やフッ素の塗布、保護者の方からのお口のお悩み相談、保育園や小学校へ訪問し、歯科検診や歯磨きの指導をしていることもありますよ。
そのほかにも、歯科衛生士はさまざまな場所で活躍しています。
仕事の内容は勤め先や勤める歯科医院によって異なりますが、それぞれ歯やお口を守るために働いています。
歯科衛生士になるにはどうしたらいい?
歯科衛生士になるためには、専門学校か大学で3年間、歯科衛生士になるための専門の勉強をし、国家試験に合格することが必要です。
歯科衛生士になるための学校は文部科学省が指定している歯科衛生士学校、あるいは都道府県知事が指定している歯科衛生士養成所に限られています。
指定の学校で3年間以上学び、決められたカリキュラムを修了したと認められると国家試験を受験することができます。
授業では座学(講義を受ける)や実技講習だけでなく、実際に歯科衛生士が働く歯科医院や大学病院、老人ホームなどでの臨床実習も行います。
専門学校と大学で学べる内容に大きな違いはありませんが、4年制大学に設けられている歯科衛生士学科の場合は4年間勉強することとなります。
大学では4年間あるため、比較的余裕のあるカリキュラムが組まれたり、特別授業が組まれることもあるようです。
また、必須科目以外の授業を自由に選択して受講することができる大学もありますよ。
歯科衛生士学校の費用は300万円程度
歯科衛生士学校は、国公立と私立に分けられます。
国立・県立の歯科衛生士学校であれば、3年間でおよそ150~300万円程度の費用で通学することができます。
一方、私立の場合は費用は学校によってかなり異なります。
比較的費用が安めの学校では、3年間で300万円前後と国公立と大差なく通うことができるようです。
しかし、費用が高めの学校では3年間で600万円を超えることも。
年間費用が高額な学校では、学校の設備が新しかったりきれいであったり、各科目の専門の先生が来て授業をしてくれるなど、ただ費用が高い=悪いというわけではありません。
また、歯科衛生士学校によっては実習着や授業に使う器材の費用、教科書代などが年間費用に含まれていないこともあり、後から別途費用がかかることも。
私の通っていた学校では、B型肝炎の予防接種やその抗体検査の費用、実習やテストの際に着るスーツ代、使用するマスクやグローブ(手袋)代、実習先までの交通費などさまざまな費用が追加で必要でした(試験に落ちて再試験になると、その都度追試料もかかったようです…)。
年間費用が安いのは、年間費用以外に追加で払う料金が多いからかもしれません。
費用についてはよく確認してくださいね。
歯科衛生士の国家試験の合格率は?
歯科衛生士の国家試験は年に1度、3月の上旬に行われます。
近年の合格率は90%を超えており、毎年6千人以上の歯科衛生士が誕生しています。
(令和3年3月に行われた歯科衛生士国家試験では、7099人が受験し6624人が合格。合格率は93.3%でした。)
国家試験の中では比較的高い合格率といえるでしょう。
ですが、ここでちょっと気を付けてほしいのが、これは「歯科衛生士の国家試験を受けた人のうち」90%以上が合格しているという意味だということです。
歯科衛生士になるためには歯科衛生士学校に通う必要がある、とご紹介しましたね。
歯科衛生士学校としては、自校で学んだ生徒の国家試験合格率が高いことが学校のアピールに繋がります。
そのため、国家試験に受からなさそうな生徒はカリキュラムを修了できていないとして、国家試験を受けさせない学校もあるのです。
合格率が高いから簡単、と安易に考えず、3年間でしっかり勉強をする必要があることを覚えておいてくださいね。
歯科衛生士に向いている人はどんな人?
お口の中・歯学に興味がある人
歯科衛生士はお口の中や歯学についてしっかりと勉強します。
お口の中や歯学に興味がないと、毎日患者さんのお口と向き合うことは辛くなってしまうかもしれません。
コミュニケーション力がある
歯科医院にはいろんな人が通院されます。
子供から高齢者まで、歯科に恐怖がある人や歯科を嫌いな人も来院します。
そんないろんな患者さんとコミュニケーションをとり、信頼関係を築くのも歯科衛生士の仕事です。
手先の器用さ、根気強さ
歯科衛生士の仕事は細かく繊細な作業が多く、また、患者さんのお口の中を傷付けないために正確に作業する必要があります。
手先が器用であれば、比較的スムーズに技術の取得ができるかもしれませんね。
また、一つひとつの作業をていねいに集中して行う根気強さがあると良いでしょう。
協調性
歯科治療はチームワークが大切であると言われています。
歯科医師との連携はもちろん、業務中のほかのスタッフとの連携も大切です。
気配りができる
これは、気が利く、先を読める力とも言い換えられるでしょう。
歯科医師や患者さんが何をしてほしいと思っているかを感じ取ることができるのも、歯科衛生士には大切です。
責任感がある
歯科衛生士は、歯やお口の健康を守る仕事です。
お口の健康は全身の健康へも繋がるため、大げさではなく患者さんの人生に関わることもあるのです。
また、患者さんも責任感がない人にお口の中に医療行為をされたくはないですよね。
患者さんの健康のために、責任感を持って仕事をできることが必要です。
もちろん、上記のことは「歯科衛生士に向いているか」どうかであり、それに自信がなければ歯科衛生士になれないわけではありません。
向いていなくても、練習したり慣れればできるようになることもたくさんあります。
たとえ苦手でも、患者さんと向き合う気持ちがあること、そのための知識と技術を身に着ける努力ができればきっと大丈夫ですよ。
歯科衛生士のお給料はどれくらい?
2020年9月に厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査によると、歯科衛生士の基本月収の平均値は28万6千円(※)とされています。
※ボーナスなどの支給がない分、月給を高めに設定している歯科医院も含まれている平均値です。
この賃金構造基本統計調査では全年齢の歯科衛生士が対象です。
卒業したての新米歯科衛生士はお給料が低いこともありますので注意してくださいね。
また、ボーナスなどの特別賞与については、歯科医院によって支給の有無が異なります。
また、支給あり、となっていても歯科医院の業績によっては支給されないことも考えられます。
年収では300~400万円程度が平均と言われており、歯科衛生士以外の職業の女性の平均年収とほとんど同じですね。
そのほか、勤め先のボーナスの有無やインセンティブ(一定の患者数を担当した場合にもらえるなど、特別に設けられた報奨金)の有無によっては平均よりも高いお給料をもらえることもありますよ。
また、同じ歯科医院で継続して勤めている場合は昇給することもあります。
歯科衛生士はお給料が高い、と言われることもありますが、現実は女性の平均収入と大差はないでしょう。
歯科衛生士は将来が安心って本当?
歯科衛生士というと、「安定した職業」や「将来性のある職業」と言われることもあります。
本当に歯科衛生士は将来が安心な職業なのでしょうか?
安定していると言える理由の1つ目は就職のしやすさ、再就職のしやすさでしょう。
日本歯科衛生士会によると、歯科衛生士の求人倍率は21倍!
1人の歯科衛生士に対し、21の歯科医院が就職してほしいと希望しているのです。
引く手あまたと言える状態のため、歯科衛生士学校を卒業したけど就職できない、1度辞めてしまったら再就職ができない、なんてことはあまりありません。
家庭の事情や妊娠、子育て、家族の転勤などで退職したあとも、再就職のしやすい仕事のため、安心ですよね。
2つ目の理由として、歯科衛生士の仕事はAIに代わることのない仕事、と言われています。
患者さん一人ひとりのお口に合わせた精密な作業は、機械に代わることは難しいでしょう。
それどころか、高齢化社会になるに従い、お口のケアが必要な患者さんは増加するため歯科衛生士の仕事は増えるとさえ言われています。
こうした理由から、歯科衛生士の仕事は安定しており、将来性が見込める仕事といえますね。
歯科衛生士をやめる理由は?
安定している職業の歯科衛生士ですが、転職率、離職率が高いとも言われています。
離職の原因で1番多いと言われているのは「人間関係」。
歯科医院は個人経営のため、必要最低限の少人数で経営している医院も少なくありません。
そのため、先輩スタッフとうまく関係性を作れない、お局さんからいじめられてしまう、歯科医師のスタッフへの態度が悪い、後輩だからと仕事を押し付けられる、などの人間関係のトラブルから辞めてしまう人も多いようです。
人が少ないために希望の日に休みが取れない、他のスタッフが休むために代わりに出勤する必要がある、など休暇に関するトラブルもあるようですね。
患者さんへの対応が合わない、衛生管理がずさん、仕事に必要な器材の自腹購入、歯科衛生士ができる範囲外の仕事の強要なども辞める原因に。
自分に合った歯科医院を見つけるまで転職を繰り返してしまう人もいるようです。
もちろん、子育てや家族の転勤など、よくある家庭の事情で辞める歯科衛生士もいます。
再就職がしやすい分、転職率・離職率も高くなりやすいのかもしれませんね。
歯科衛生士のやりがいは?
多くの歯科衛生士がやりがいを感じる瞬間は、患者さんのお口の中の状態が改善されていることが実感できたり、患者さんからの「ありがとう」の言葉ではないでしょうか。
私の勤めていた歯科医院は担当制ではなかったのですが、他にもいる歯科衛生士の中で「次も絶対にあの衛生士さんが良い」と指名してもらえた時に、なんとも言えない嬉しさを感じたのを覚えています。
そのほかに、たくさんの歯石がついている人のお口の中がきれいになった時や、虫歯治療を拒否していた患者さんが治療を受けてくれるようになった時もやりがいを感じられました。
自分が時間をかけて向き合ってきた患者さんのお口が良い状態になるのはやはり嬉しいですよね。
また、普段は使わない器具が必要になるのを察して先回りして出せた時、レントゲンのセットが完璧にできてきれいな撮影ができた時、患者さんに説明をスムーズにできた時など、自分の成長を感じられる小さな出来事がやりがいとなるはずです。
人のため、患者さんのために歯科衛生士として向き合える方であれば、きっとやりがいを感じることができると思います。
まとめ
歯科衛生士は国家資格であり、たくさんのメリットがあるお仕事です。
医療に関わる仕事のため責任も伴いますが、きっとやりがいを感じることもできるでしょう。
また、お休みは歯科医院の営業日によりますが基本的に夜勤もなく、プライベートを確保しつつ働くことができますよ。
興味はあるけど歯科に詳しくないし…という方は、まずは患者さんとして通ってみたり、歯科でアルバイトをしてみてもいいかもしれませんね。
国家試験の合格率も高い歯科衛生士は、国家資格の中では狙い目の職業。
手に職を付けたい、再就職がしやすい資格がほしい、安定して働くことができる仕事がしたい方はぜひ歯科衛生士を検討してみてくださいね!