誤嚥性肺炎とは?
加齢や疾病による食べ物の飲み込み機能の低下や、咀嚼や飲み込みが困難になる嚥下障害に陥ることにより、飲食物や唾液などが誤って食道ではなく気管に入り込んでしまうことを「誤嚥」といいます。
誤嚥の原因は他にも、お口の中が乾いて食べ物がうまく飲み込めない(唾液量の減少)、入れ歯が合わなくて噛めない、歯が欠損していて食べ物がしっかりと噛めていないなどがあります。
健常な方は、食道以外に飲食物や唾液などが入り込むと、むせて吐き出すことができますが、機能が衰えてくると吐き出すことができず、唾液や飲食物などが気管へ入り込んでしまいます。
誤って飲み込んだ飲食物や唾液と共に細菌も入り込んでしまい、細菌が肺内で繁殖し、炎症をおこす疾患を「誤嚥性肺炎」と言います。
誤嚥性肺炎は繰り返し発症することが多く、誤嚥性肺炎に罹っている間に他の疾患を引き起こしてしまう可能性があります。
2017年「厚生労働省の人口動態統計」によると、誤嚥性肺炎が原因の高齢者の死亡数は第7位です。
高齢化社会の今、誤嚥性肺炎の死亡率は高まり続けるといわれており、東京都健康安全研究センターによると、2030年における誤嚥性肺炎の死亡者数は男性77,000人・女性52,000人程度に増加すると予想されています。
加齢に伴い、喉の筋肉が衰えて、食べ物を飲み込む機能は低下していきます。
歳を重ねると誰でも誤嚥の可能性が高まります。健康なうちから、誤嚥予防対策をとることが大切といわれています。
気付かない間に進んでいる嚥下障害
嚥下障害は様々な症状があり、ご自身では気付かない場合もあります。
自覚症状や、ご家族から見て、当てはまる項目がないか確認してみましょう。
~ご家族から見て~
□食事中によくむせている(特に水分をとったとき)
□口の中に食べ物をためこんで、なかなか飲み込まない
□発熱や微熱を繰り返す
□睡眠中にむせている
□食事に時間がかかるようになった
~自覚症状~
□飲み込んだつもりでも、お口の中に食べかすが多く残っている
□飲み込んだ時に、喉につかえる感覚がある
□食べ物を飲み込んだ後に、声がかすれる、ガラガラする
□体重が減少を続けている
2つ以上が当てはまると嚥下障害が起きているかもしれません。
嚥下障害があるまま、日常生活を送ってしまうと誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
また、嚥下障害以外にほかの病気が隠れている可能性がありますので、2つ以上当てはまる方は早めに医療機関を受診しましょう。
お家でできる誤嚥予防対策とは
①口腔ケアを徹底に行う(オーラルケア)
「誤嚥性肺炎」は、歯周病や虫歯の細菌が肺に入り込むことで炎症を起こします。
菌が肺に入り込んでしまう可能性を軽減するためには、常にお口の中を清潔にしておくことが重要です。
お口の中の細菌が減少すると、肺炎の発症率が下がることが報告されています。
また、歯磨きによって頬や唇を動かしたり、お口の中が適度に刺激されることによって筋力の低下を予防できます。
高齢になるにつれてお口の中が乾燥していると、歯と歯の間や噛む面の溝など細かい部分に汚れが残りやすくなります。
汚れが残っていると、誤嚥の原因となりますので、歯間ブラシやフロスを使用するなど細かい部分の汚れも落とすように心がけましょう。
歯科医院でご自身に合った清掃用具を紹介してもらうことも効果的です。
また、ご自身の歯の清掃も大切ですが、入れ歯の清掃も非常に重要です。
入れ歯にも汚れが付着します。食事をとったら1度外してブラシで磨き、汚れを取り除きましょう。
入れ歯を外した後にお口の中に残っている食べかすもしっかり取り除いてください。
夜には、汚れを落としてから洗浄剤につけるなどケアを行い、菌を減らしておくことで誤嚥性肺炎のリスクを低減できます。
②「パタカラ体操」
現在よく見かける「誤嚥性肺炎を防ぐための体操」の共通点として、凝り固まっているお口周りや顎、首をストレッチすることによってリラックスさせることが重要です。
緊張している筋肉を解して、柔軟性を高めることが嚥下機能の低下の予防に効果的だといわれています。
「パタカラ体操」は正しい姿勢で深く呼吸しながら行うことで、お口の周りの筋肉をほぐしていきます。
【パタカラ体操の方法】
・「パ」の発音では唇を動かして発音することを意識して行いましょう。
唇をしっかり閉じてから発音することで、唇の筋肉が鍛えられます。
・「タ」の発音では、舌を動かすことを意識してください。
お口の上の部分(口蓋)に舌を付けて発音することで、舌の筋肉を鍛えることができます。
・「カ」の発音では、喉の奥を閉じることを意識してみてください。
喉の奥が鍛えられることで、間違って肺に入り込んでしまう可能性を減らすことができます。
・「ラ」の発音は舌を丸めてお口の上の部分に付けて発音することを意識してください。
舌全体を動かすことで筋肉を鍛え、食べるときに舌を上手に動かすことができます。
「パタカラ体操」を毎日続けて行うことで、口や舌の動きが鍛えられます。
③あいうべ体操
あいうべ体操は、みらいクリニックの今井一彰先生が考案された体操で、お口の周りの筋肉を鍛える体操です。
舌や口の周りの筋肉が衰えると、お口を開けている状態が常になり、口呼吸へとつながります。
口呼吸はお口の中が乾燥し、誤嚥のリスクがあがります。
あいうべ体操を行うことで、お口の周りの筋肉が鍛えられ、口呼吸の改善が見込めます。
あいうべ体操は声を出さなくても構いません。
顎関節症や入れ歯の方など、大きくお口を開けるのが辛い方は、「い」と「う」だけを行ってもある程度の効果が見込めます。
1日「あ~べ」を30回が目安とされていますが、無理に行うと痛みが出てしまう可能性もありますので、無理はせず、できる範囲で継続することが大切です。
できるだけ、大きくお口を動かすことを意識して行いましょう。
参考・画像引用:みらいクリニック
④ぶくぶくうがい
ぶくぶくうがいは簡単に思えますが、お口の周りの筋肉が衰えてくると、上手にできなくなります。
口をしっかり閉じて頬を膨らませるようにすることで、口を閉じるための筋肉を鍛えることができます。
また、ぶくぶくする動きによって舌も動かすことができます。
ぶくぶくうがいがしっかりできると、お口の中の汚れの取り残しが減らせます。
既にお口をしっかり閉じることが難しい場合は、お口に空気をふくんでやってみましょう。
【ぶくぶくうがいの方法】
・左右両方の頬に水を入れて膨らませて10秒間ぶくぶくします
・右頬→左頬の順番で、片側の頬ずつ10秒ずつぶくぶくします
・もう一度左右両方の頬を膨らませて10秒間ぶくぶくします
・水をまとめて「ぷっ」と吐き出しましょう。口からこぼすようにだらだら吐き出さないようにすることがポイントです。
・まだ余裕がある人は、再度お口に水を含んで、上の唇と歯の間、下の唇と歯の間にも水を入れて膨らませ、10秒ずつぶくぶくしてみましょう。
口腔嚥下体操は誤嚥対策に効果があります
口回りの筋肉を鍛えて食べ物を上手く飲み込むことができれば、「誤嚥」を防ぐことができます。
体操のポイントは「大きく動かすこと」と「継続して行うこと」です。
1回だけ無理して長い時間をやることよりは、食事前の簡単なルーティンとして行うのがおすすめです。
お口の中を清潔に保ちながら、口腔嚥下体操を実践して誤嚥を予防しましょう。