腎がんの一種である乳頭状腎がん。比較的稀な癌ではありますが、泌尿器科医も時々経験する病気です。乳頭状腎がんはどのような検査で見つかるのか、どういった治療法があるのか、子どもや孫に遺伝することはあるのかなど、気になる点を解説していきます。

乳頭状腎がんは転移する可能性が高い?

乳頭状腎がんは、腎臓の細胞ががん化した「腎がん」の一種です。腎がんのなかで2番目に高い発症率(約10%〜15%)となっています。また、悪性度が低いものから致死性の高いものまでさまざまあります。多くの乳頭状腎がんは転移せず根治的治療(※1)が可能ですが、転移してしまう場合もあり、きちんとした診断・治療と経過観察が必要になってきます。

(※1:病気の完全治癒を目指して行う治療。)

乳頭状腎がんは2つのタイプに分けられる

乳頭状腎がんは、1型乳頭状腎がん(Type 1)と、2型乳頭状腎がん(Type 2)の2種類に分けられます。Type 1の予後(※2)は良好で、日本からの報告によると、5年癌特異的生存率(5年間の間に、癌によって命を落とさなかった割合)は94%と言われています。一方Type 2の予後は悪く、5年癌特異的生存率は50%と報告されています。

遺伝性乳頭状腎細胞がん(Hereditary Papillary Renal Cancer, HPRC)といって、遺伝性の乳頭状腎がんも非常に稀ですがあります。これはType 1の乳頭状腎がんが両側の腎に発生したり、多発することがあります。発症したとしてもType 1であることから、適切に対応すれば予後は良好であることが多いです。MET遺伝子の異常と言われています。

(※2:よご。病気の今後の経過・見通しのこと)

乳頭状腎がんの診断方法

腹部超音波検査(エコー)やCTをはじめ、血液検査・生検(※3)によって乳頭状腎がんは診断されます。それぞれの方法について解説します。

腹部超音波検査やCT

乳頭状腎がんの診断としてはまず、腹部超音波検査や造影剤を使わない単純CTが行われます。造影CT(ダイナミックCT)の診断精度が最も高いため、CTの造影剤を使用できる方(腎臓の機能が問題ない方、喘息のない方、ヨードアレルギーのない方、など)であればまず造影CTが行われ、乳頭状腎がんと診断されることが多いです。

そのほか、がんが周囲組織へ浸潤(※4)していないか、血管内に入ってきていないか、といったことを確認するためであったり、造影CTができない場合の補助的な診断方法としてMRIを用いるケースもあります。

さらに、脳転移を確認するために「造影MRI」が用いられたり、骨転移を確認するために「骨シンチグラフィ」が行われたりする場合もあります。

(※4:しんじゅん。がん細胞が周囲の組織に広がること)

血液検査

がんが進行している場合、貧血・炎症反応上昇・高カルシウム血症・低タンパク血症などの症状を血液検査によって確認できるケースがあります。

しかし、乳頭状腎がんの初期段階では、血液検査で異常が出ないことが多いため、早期発見のための検査としては適していません。また、血液検査と一緒に尿検査を行なうケースもありますが、乳頭状腎がんが進行していた場合であっても、異常が認められないことがあります。

生検(生体検査)

生検とは、がんが疑われる組織を採取して顕微鏡で調べる方法です。

がん診断の確実性が高いため、適切な治療の選択や不要な手術の回避など、さまざまなメリットがあります。がん細胞を拡散してしまう恐れがあるといったデメリットも考えられますが、最近の研究では生検によって腎細胞がんが周囲に播種(※5)してしまう可能性は極めて低いことがわかっています。また、播種を予防するための特殊な生検用の針が広く用いられており、画像だけで腎細胞がんと診断できない方に対しては、積極的に生検が行われるようになってきました。

(※5:はしゅ。体の中(主に腹部)にがん細胞がこぼれ、バラバラと広がること)

乳頭状腎がんの治療法

手術治療・薬物治療・放射線治療が、がんの3大治療法です。乳頭状腎がんでもこれらの治療法が用いられます。

手術治療

乳頭状腎がんにおいては、薬物治療や放射線治療による効果はあまり得られないため、摘出手術(※5)を行うケースが多くあります。また、口腔内など転移した乳頭状腎がんも、切除によって癌を完全に摘出することが可能であれば、摘出手術が行われることがあります。

摘出手術は、根治的腎摘除術と腎部分切除術があります。根治的腎摘除術は、腎臓および周囲の脂肪を丸ごと切除する方法です。副腎まで癌が浸潤している場合は、副腎を合併切除することがあります。一方で腎部分切除術は、腎臓の機能の温存を目的とし、がん化している部分およびその周囲の正常な腎臓を一部切除します。

これらの摘出手術には、開放手術と腹腔鏡下手術という方法があります。開放手術は腹部を切開するもので、腹腔鏡下手術は小さな穴から器具を入れて手術を行います。「腹腔鏡下腎部分切除術」は特に難易度が高い手術です。

こうしたなか、2016年より「ロボット支援下腎部分切除術」が認可され、各地で手術実績が増えています。ロボット支援下腎部分切除術の導入によって、腹腔鏡下腎部分切除術が行なわれることは減りました。最近は根治的腎摘除術も公的医療保険の適用となり、行われる施設が増えてきています。

(※6:てきしゅつ。体の外に取り出すこと。)

薬物治療

転移がある場合、薬物療法が選択されることが多いです。

薬物治療では、TKI(チロシンキナーゼ阻害剤)・mTOR阻害剤(エムトールまたはエムトア阻害剤)・ICI(免疫チェックポイント阻害剤)という3種類の薬剤が患者さんの状態に合わせて用いられます。

TKIは、がん細胞が作る新しい血管を潰して、がん細胞に栄養や酸素が供給されるのを阻害する効果が期待できる薬剤です。副作用としては、高血圧・下痢・倦怠感のほか、手足症候群や腎障害なども挙げられます。

mTOR阻害剤は、がん細胞の増殖などに関係する「mTOR蛋白」の作用を抑える効果が期待できる薬剤です。薬剤の使用により、間質性肺疾患・口内炎・蛋白尿・腎障害などの副作用が起こることが考えられます。

ICIは、免疫力を強化し、がん細胞を破壊する作用が期待できる薬剤です。副作用で、免疫の暴走による自己免疫疾患のような症状を起こすケースがあります。

最近はICIとTKIを組み合わせる併用療法が、未治療の転移性腎細胞がんに対して公的医療保険の適用となっており、広く用いられるようになってきました。

放射線治療

放射線治療では、体の外から放射線を当てる外部照射が主に行われます。そのほか、放射性物質を体内に挿入したり、飲み薬や注射で投与したりする内部照射という方法もあるのです。放射線治療は痛みをほとんど伴いませんが、数分間は動かずにいる必要があります。

治療法の一つではあるものの、放射線治療は腎がんに対して効果があまり見込めず、症状緩和や合併症予防を目的に行われるケースが多いです。

まとめ

超音波検査やCT検査などで偶然見つかることが多い乳頭状腎がん。治療法としては、転移がなければ手術治療が一般的には行われますが、転移がある場合は薬物治療や放射線治療が行われます。遺伝性の乳頭状腎がんもありますが、稀です。検診などで指摘された場合には、放置せず専門の泌尿器科へ受診するようにしましょう。