嫌色素性腎がんが口腔内に転移するって本当?

1985年にThoensらによって初めて報告された嫌色素性腎細胞癌は、さまざまな種類がある腎癌全体の5%を占めていて、5年生存率が92%と腎がんのなかでは比較的予後が良好な腫瘍であると認識されています。1)

嫌色素細胞癌の発生母地は、遠位尿細管から集合管にある介在細胞とされていて2)、通 常型の腎細胞癌が近位尿細管に由来するのとは異なることが知られています。

嫌色素性腎がんを含め、腎がんは腎臓の細胞が遺伝子の異常を起こしてがん化したものです。過去には、下あごの骨に腎がんが転移した症例があるため、嫌色素性腎がんが口腔内に転移する恐れもあると考えられるでしょう。

下あごの骨に腎がんが転移した症例では、歯痛や耳前部の痛みがきっかけでがんが発見されました。

嫌色素性腎がんの主な症状


嫌色素性腎がんに限らず、多くのがんは早期発見が治療の鍵となります。
嫌色素性腎がんが引き起こす主な症状を紹介します。当てはまると思った方は、早めに医療機関を受診しましょう。

初期は無症状

初期段階では無症状のケースがほとんどですが、進行すると血尿や発熱・腰背部痛などを認めますし、悪性腫瘍が血管を伝って進展していくことがあり、時にはがんが腎臓から心臓にまで達する、あるいは肺・リンパ節・骨・肝などに転移する場合もあります。

気づかない間に悪化してしまうことがあるため、下記のような症状が出てから詳しく検査を行なったときにはすでにがんが進行している恐れがあります。
近年では、健康診断や他の病気の検査などで嫌色素性腎がんが偶然発見されるケースも多いのです。

血尿

嫌色素性腎がんが進行して大きくなると、血尿がみられるようになります。血尿は痛みを伴わないケースがほとんどです。

血尿は腎がんの3大症状の一つで、症状のなかで最も多くみられます。

しこり

​​嫌色素性腎がんが進行すると、しこりが現れます。また、しこりができた箇所が痛むことも少なくありません。血尿・しこり・痛みが、腎がんの3大症状です。

口腔内に転移する前の嫌色素性腎がんは、腰や背中に痛みが出て、腹部にしこりが現れるケースが多いとされています。

発熱や食欲不振

症状が進行するにつれて、発熱や食欲不振が起こるようになります。また、食欲不振によって体重減少の症状が現れる場合もあるのです。

発熱や食欲不振などの症状がみられる場合、すでにがんが進行して全身に広がっている恐れがあります。

嫌色素性腎がんの治療法


嫌色素性腎がんと診断された場合には、進行度や患者さま本人の希望などを総合的に判断し、医師との話し合いによって治療法を決定します。

具体的な治療法は以下の通りです。

抗がん剤治療

手術による治療が難しい場合には、抗がん剤治療が行われます。

嫌色素性腎がんの抗がん剤治療に用いる薬剤は、「TKI(チロシンキナーゼ阻害剤)」「mTOR(エムトールまたはエムトア阻害剤)」「ICI(免疫チェックポイント阻害剤)」の3種類があります。

TKIは、がんが自ら作った新しい血管を潰して、がんへの栄養や酸素の供給を阻害する効果が期待できる薬剤です。副作用としては、高血圧・下痢・倦怠感をはじめ、手足症候群・腎障害などがあります。

mTORは、がん細胞の増殖などに関係する「mTOR蛋白」の作用を抑える効果が期待できます。間質性肺疾患・口内炎・蛋白尿・腎障害などの副作用を引き起こす可能性があります。

ICIは、細菌やウイルスを攻撃して排除する免疫力を強化し、がん細胞を破壊する作用が期待できる薬剤です。免疫の暴走によって自己免疫疾患のような副作用を引き起こすことがあります。

放射線治療

放射線治療は、体の外から放射線をあてる「外部照射」を行なうことが一般的です。照射による痛みはほとんどありません。

ただし、嫌色素性腎がんには放射線治療が効きにくいことがわかっています。そのため、症状緩和や合併症予防を目的に行なわれることが多いです。

切除手術

抗がん剤治療や放射線治療では効果が乏しいため、嫌色素性腎がんの治療では多くのケースで切除手術を行ないます。口腔内に転移している場合には、口腔内と腎臓の両方の嫌色素性腎がんを切除する必要があるのです。

切除手術には、根治的腎摘除術と腎部分切除術の2つの方法があります。

根治的腎摘除術は、場合によっては副腎も含めて腎臓を丸ごと切除する治療法です。
切除によって腎臓が1つになったとしても、残った腎臓が正常に働けば生活に支障はありません。

一方、腎部分切除術は、腎臓の一部のみを切除して腎臓機能の温存を目的とする治療法です。
近年は小さながんで位置に問題がなければ、腎部分切除術が行なわれるケースが増えています。

手術方法としては、根治的腎摘除術と腎部分切除術のいずれにも従来から実施されている開放手術と腹腔鏡下手術があって、特に腹腔鏡下腎部分切除術は難易度が高い手術内容です。

また、2016年にはロボット支援手術が認可されて、これまで以上に手術成績が向上したという報告が増加している現状があります。

嫌色素性腎がんの治療後に気をつけること


嫌色素性腎がんの根治のために片側の腎臓を切除した場合、残った腎臓が正常に働けば生活に支障はありません。ただし、腎臓の機能を保つためには高血圧や糖尿病などに注意する必要があります。

暴飲暴食は避けて、規則正しく消化の良い食事をしていくことが大切です。
塩分の摂りすぎは腎臓に負担がかかるため注意し、意識して水分補給を行なっていきましょう。

その他にも、禁煙したり、お酒を飲みすぎないよう心がけたり、適度な運動を行なったりと、健康的な生活を続けていくことが大切です。

まとめ

嫌色素性腎がんは初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないまま進行し、口腔内などに転移することも考えられます。

下あごの骨に腎がんが転移した症例では、歯痛や耳前部の痛みがきっかけでがんが発見されました。

嫌色素性腎がんは、何かしらの症状が出る前の初期段階で発見することも可能です。
早期発見のためには、定期的な健康診断や歯科検診を大切にしていきましょう。

参考文献

1)黒田直人,埴岡啓介,林 祥剛,伊東 宏:嫌色素細胞性腎癌.日本臨床 別冊 領域別症候群シリーズ16 1997; 456―458.

2)Storkel S, Steart PV, Drenckhahn D, Thoenes W: The human chromophobe cell renal carcinoma: its probable relation to intercalated cells of the collecting duct. Virchows Arch B Cell Pathol 56: 237-245, 1989.