顎関節脱臼とは

顎関節脱臼とは、いわゆる顎が外れた状態のことを指します。
具体的には、大きく口を開けた後に閉じることができなくなってしまう症状です。

全体では70代に多く、また、40歳以下の男性、50歳以上の女性に多い傾向です(脳・精神疾患の既往のある高齢者に多いという報告もあります)。
1度起こるすると日常生活で何度も再発するといった習慣性の症状になる危険性もあります。

顎関節脱臼は、脱臼方向や脱臼の仕方、時期などによって細かく分類されます。

左右の顎関節どちらかが脱臼した場合は片側性、両方の場合は両側性といいます。
顎関節が前方にずれると前方脱臼で、後方にずれれば後方脱臼、側方にずれると側方脱臼です。

顎の関節を構成する下顎骨の下顎頭と側頭骨の下顎窩という部分の接触がないと完全脱臼、一部の接触があると不完全脱臼(亜脱臼)と言います。

そのほか、発症してからすぐの来院の場合は急性で、3週間以上など発症してから来院までの時期が経過していれば陳旧性に区別されます。
1回限りの脱臼を非習慣性、2回以上脱臼したことがある場合を習慣性などと分類することもあります。

顎関節脱臼の原因

顎関節脱臼は、笑った時や欠伸(あくび)をした時、歯の治療中など大きく口を開けた時、硬いものを思い切り噛んだ時などがきっかけとなり発症することがあります。

また、精神的ストレスなどにより向精神薬の服用やパーキンソン病、脳血管障害による錐体外路症状(筋肉が硬くなったり、自発的な動作ができなくなり手足が震えて姿勢が保てないなど)の誘発が咀嚼筋の協調不全をもたらし、脱臼が起きやすくなるともされています。

顎関節の脱臼の原因として口を大きく開けたりお薬や全身疾患の影響以外に、顎関節そのものの構造(加齢により関節窩が浅く関節結節が低くなって筋肉の不調和を起こしている)や顎運動に関連する組織の構造や機能の異常(脱臼の放置により陳旧化してしまうと顎関節腔の間に線維性結合組織で充満されて観血的処置が必要になる)なども考えられています。

顎関節脱臼の症状

顎関節脱臼では顎が外れて前に出る脱臼が多いため、下顎が前下方へ移動し顔が面長になります。
脱臼していると、口を閉じたり噛むことができなくなってしまいます。

また、顎関節部に痛みが生じて緊張を感じたり、耳前部の顎関節で普段は盛り上がっている部分が凹んでしまい、かわりに1~2cm前下方部がボコッと盛り上がっていることもあります。


顎関節脱臼の治療方法

顎関節脱臼の治療は、手術を行わずに対処する方法と手術を行う方法の2つに分類されます。

徒手的整復

脱臼した顎を手を使って元の位置に戻す方法を、「徒手的整復」と呼びます。
痛みがある場合は笑気麻酔を使ってから整復することや筋弛緩剤を併用して行うこともあります。

ただ元に戻しただけではすぐに再発してしまう恐れがあるので、弾性包帯(テーピング)やチンキャップなどを使って、口が開かないように数週間から数ヶ月など一定期間の開口制限を施すのが一般的です。
急性の顎関節脱臼であれば、効果も高いことが報告されています(大開口を制限する明確な期限はありませんが、4~6週間の固定を推奨している研究報告もあります。長すぎると顎関節部分に褥瘡を作ってしまうこともあるので注意が必要です)。

ただし、習慣性や陳宮性の顎関節脱臼が認められる場合は上記のような保存的処置では効果が薄いとされています。
徒手的整復ではなく、次のような手術によって改善を図ったほうがよいでしょう。

関節結節切除術

「関節結節切除術(下顎頭の運動平滑化法)」は、局所麻酔をおこなって顎関節部分の皮膚を3cm程度切開し、関節結節と呼ばれる骨の隆起している部分を切除して顎の動きをスムーズにするための手術です。

顎の両側を施術しても1時間程度で終了する簡単な手術ではありますが、全身麻酔下で行う必要がある場合は入院して行うこともあります。

耳の前部分を切開しますが、手術痕は髪の長い人であれば髪の中に隠れて縫合部はあまり目立ちません。
しかし、髪が短い場合や髪の生え方、傷の位置によってはやはり目立ってしまいますので、気になる場合は担当医と事前に相談したり、ヘアスタイルを変えてみてもよいかもしれませんね。


顎関節脱臼は予防できる?

あくびやくしゃみといった日常の動きを自制することは難しいので、完全な予防には限界があります。
脱臼しやすい方の関節を下にして寝ないように心がけたり、あくびをするときに口を大きく開けないように意識するなどはある程度の予防・対策としては有効ですので気を付けてみてください。

また、硬い食品の過剰摂取を控えたり、歯の噛み合わせを定期的に歯科医院で確認したりすることにより将来的な顎関節脱臼の可能性を減らすこともできます。

例えば、歯を失った後に入れ歯を入れないままにしていると奥歯の接触が無いことにより下顎の動きが制御されず(安定せず)脱臼しやすくなります。
この場合、入れ歯を入れて奥歯の噛み合わせを作ることをすれば良いでしょう。

顎関節脱臼の考えられる原因や頻度、経過に応じて、自分に合った予防方法を実践してみてください。

まとめ

顎関節脱臼は、いわゆる顎が外れた状態を意味します。
いったん元に戻ったからといって放置しているとちょっとしたことで脱臼しやすくなってしまい、やがては習慣化してしまうこともあります。

習慣性になると徒手的整復などの保存的療法での解決は難しく、手術の検討が必要です。
習慣化する前の早期の治療を受けることが大切なので、顎関節の動きがおかしいと感じたら早めに医療機関を受診しましょう。