腎細胞がんは下顎に転移する恐れがある?

腎細胞がんとは、腎臓の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものを指します。

腎細胞がんは、通常尿を産生して体内の不要物や老廃物を排出する役割を担っている腎臓という臓器に形成され、本疾患は女性よりも男性により発症率が高く、近年は罹患する患者数が増加傾向であると言われています。

腎細胞がんは、肺・リンパ節・肝臓などに転移しやすいという特徴があり、稀ではあるものの、過去の症例で腎細胞がんが下顎歯肉に転移したケースもあります。

この症例では当初、下顎歯肉がんを疑いましたが、検査した結果、腎細胞がんが転移したものだと判明したのです。
このとき患者さんの栄養状態は良好で、左側の下顎歯肉が腫れている症状がみられるだけでした。


腎細胞がんの主な症状

腎細胞がんを発症したときに現れる主な症状をご紹介します。

初期段階は無症状

腎細胞がんの初期段階は、自覚症状がないケースがほとんどです。
自覚症状がなくても、健康診断や他の病気のときの検査などで腎細胞がんが小さいうちに偶然発見されることがあります。

下顎歯肉に転移した腎細胞がんが発見された症例のように、他の箇所に転移したがんが見つかり、検査してみると腎細胞がんだったというケースもあるのです。

血尿やしこり

そもそも腎臓は腰の上あたりにある臓器で、血液をろ過して尿をつくるなどの機能をもっています。
腎細胞がんが進行して大きくなると、血尿がみられるようになるのです。

また、しこりが現れ、しこりのサイズが大きくなるにつれて痛みも生じるようになります。
しこりや痛みは転移した箇所で生じる場合がほとんどで、下顎歯肉に転移したケースでは、患者さんは下顎歯肉の腫れを訴えていました。

血尿・しこり・痛みは、腎細胞がんの三大症状といわれています。

発熱や体重減少

腎細胞がんを発症すると、発熱や体重減少といった全身症状が現れるようになります。
食欲不振や吐き気によって体重減少は起こります。また、全身症状がみられる場合は腎細胞がんがすでに進行している状態と考えられるのです。


腎細胞がんの診断方法

腎細胞がんの診断には、腹部超音波検査・Computed Tomography(日本語でコンピュータ断層撮影検査、略称はCT)・磁気共鳴イメージング(英語表記でMagnetic ResonanceImaging、略称はMRI)・血管造影・骨シンチグラフィなどが用いられます。
また、腎細胞がんが偶然発見されるときは、超音波検査によって判明するケースがほとんどです。

腎細胞がんにおいては、腫瘍径が小さい段階では自覚症状がほとんど出現しないことが多く、定期的なかかりつけ医の受診、あるいは人間ドックや検診などにおける超音波検査を始めとする画像検査で初めて指摘されて診断に繋がることがしばしば認められます。

ただし、超音波検査では、発見した腫瘍が良性か悪性かという点までは正確に判定できません。
そこで、CTやMRIを用いて造影剤を使用して撮影することで、良性・悪性を判定していきます。
CTやMRIは、腎細胞がんの転移や血管壁に進展した腫瘍の有無を診断することにも役立ちます。

血管造影検査とは腎臓の周囲の血管にカテーテルを挿入して造影し、腫瘍の局在や栄養血管の有無、あるいは良性か悪性かを推測する為に腫瘍自体の形状などを診断する方法です。
近年はCTやMRIを用いることが多く、腎動脈を閉塞する塞栓術を行う以外には血管造影はあまり使われていません。

そして骨シンチグラフィは、腎細胞がんが全身の骨に転移していないか判定する検査方法です。


腎細胞がんのステージの分類方法

腎細胞がんのステージ(病期)は4段階に分けられ、数字が大きいほど進行している状態です。
一般的に腎臓がんはステージIが患者さんの70~80%程度を占めていて、ステージIIが5%程度、ステージIIIとステージIVが各々10%程度存在すると言われています。

ステージごとの特徴を解説します。

ステージⅠ

腎細胞がんの直径が7cm以下で、他の箇所への転移がない状態です。
また、ステージⅠのなかでも腎細胞がんの直径が4cm以下の状態と、4cmを超えているが7cm以内にとどまっている状態に分けられます。

ステージⅡ

腎細胞がんの直径が7cmを超えていて、他の箇所への転移がない状態です。
また、ステージⅡのなかでも腎細胞がんの直径が10cm以下の状態と、10cmを超えているが腎臓にとどまっている状態に分けられます。

ステージⅢ

ステージⅢは他の箇所への転移がない状態と、他の臓器への転移はないが所属領域リンパ節への転移がある状態の2つに分けられます。

他の箇所への転移がない状態のうち、腎臓だけではなく周りの腎静脈、周囲の脂肪組織、下大静脈、右心房まで進行している状態もまだステージⅢとみなされます。

所属領域リンパ節への転移がある状態は、がんがゲロタ筋膜(腎臓を覆っている膜)を超えたり隣接臓器まで浸潤したりしていなければ、がんの大きさに関わらずステージⅢとみなされるのです。

ステージⅣ

腎細胞がんがゲロタ筋膜を超えたり副腎まで浸潤したりしている場合、リンパ領域や他の臓器に転移していなくてもステージⅣとみなされます。

また、所属領域のリンパ節転移が2個以上認められる、あるいは別の臓器への転移がある場合はがんの大きさに関わらずステージⅣとなるのです。

まとめ

腎細胞がんは自覚症状がないまま進行する恐れがあり、歯肉に転移して発症するケースもあります。
早期発見のために、健康診断をはじめ、定期的な歯科検診も大切にしていきましょう。

また、治療方法は手術、あるいは身体表面からニードル(針)を刺して直接的に腫瘍を凍結させて死滅させる治療手段である凍結療法、薬物療法などがあり、ステージや患者さまの希望、体の全身状態などから総合的に判断し、医師と話し合って決めていきます。

腎細胞がんを発症した際には悪性腫瘍が腎臓内にとどまっている場合、つまりがんのステージが早期の範疇に該当するケースでは手術による根治的な切除が治療の基本となります。

実際に手術治療が必要な際には、腫瘍径や性状、腎機能などに応じて、がん組織を腎臓と共に全て切除する腎摘除術、あるいは腎臓を一部分のみ切除する腎部分切除術を選択します。
また、手術を施行しても再発した場合、あるいは手術で全て悪性腫瘍を切除することができなかったケースでは、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用することも見受けられます。