歯周病による影響とは?


心臓疾患・脳血管疾患になるリスク

歯周病菌は、エンドトキシンと呼ばれる内毒素を出します。
この歯周病菌の持つ内毒素によって、歯茎の炎症や歯周組織の破壊が引き起こされます。
組織の破壊などによって歯周病菌が歯茎の血管などから入り込み、血流で全身に回ってしまうと考えられています。

血管に入り込んだ歯周病菌が血管内にプラークと呼ばれる塊ができやすくなります。プラークは血管が硬くなる動脈硬化の原因です。

また、血管のプラークが剥がれて、血流で心臓などの狭い血管に辿り着き、心筋梗塞などの疾患を引き起こすことにもつながります。

糖尿病を悪化させるリスク

血管内に入り込んだ歯周病菌は身体の持つ免疫機能によって退治されますが、歯周病菌が持つ内毒素が全身へ悪影響を与えます。
脂肪組織や肝臓から発生する、「TNF-α」というサイトカインという物質の産生を促進します。

TNF-αは血液中の糖分の取り込みを抑える働きがあります。
通常、インスリンというホルモンが血糖値を一定に保つために上がった血糖値を下げる働きをしていますが、TNF-αの生産が促進されると、TNF-αがインスリンの働きを邪魔し、血糖値が下がりにくく高い状態が続き、糖尿病の血糖値のコントロールが悪くなります。

食事や運動、睡眠などの生活習慣に気を付けていても、お口の中の歯周病が重度に進行していては、糖尿病のリスクがあるのです。

低体重児出産・早産のリスク

妊娠中はエストロゲンという女性ホルモンが多く産生されます。生活習慣病を発症しにくくすると言われています。

歯周病の発病に女性ホルモンが関わっていると言われ、P.intermedia(プレボテラ・インターメディア)という歯周病菌は、女性ホルモンを栄養として増殖します。女性ホルモンが増加する妊娠期は上記の歯周病菌によって歯周病になりやすくなります。

歯周病は低体重児出産や早産のリスクも高まるとされます。

歯周病は、お口の中に炎症が起きている状態で、炎症が起こるとサイトカインと呼ばれるたんぱく質が産生されます。

サイトカインは子宮を収縮させるプロスタグランジンという活性物質を産生させます。歯周病によってサイトカインが産生されることにより、過剰なプロスタグランジンが産生され、早産や低体重児出産の原因になります。

歯周病による低体重児出産や早産の危険性はタバコやアルコール、高齢出産などの要素よりも、はるかに高いといわれているんです。

誤嚥性肺炎になるリスク

誤嚥性肺炎は、食べ物や異物、唾液が誤って気管や肺へ入り込み、これらに付着している口腔内の細菌が増殖してしまうことが原因で起こる肺炎です。
高齢者になると飲み込む機能が衰え、飲み込んだ時にうまく食道へ流れず、気管に入り込んでしまいやすくなります。

食べ物ともに、気管支や肺へ歯周病菌や虫歯菌をはじめとした口腔内細菌が肺へと入り込むことで誤嚥性肺炎が引き起こされるのです。

関節炎・腎炎になるリスク

関節炎や腎炎になる原因の一つとして、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などの細菌感染があります。

黄色ブドウ球菌や連鎖球菌の多くは口腔内細菌に含まれているため、口腔内細菌が血液中に入り込むと関節炎や腎炎になるリスクも増大してしまいます。

歯周病は治る?


歯周病を改善することは可能です。
ですが完治させることは難しく、「歯周病が改善されてきた」というのは治ったというよりも小康状態(やや回復して落ち着いて、病状が安定している)になったと考えてください。

歯周病治療をいくらしても、口の中から歯周病菌を全てなくすことはできません。常に再発の可能性があるといっていいでしょう。病状が悪化しないように定期的にクリーニングを歯科医院で受けることは大切です。

歯周病の治療

完治しないからといって治療しなくていいことにはなりません。
治療をしなければ歯周病はどんどん進行し、歯が抜けたり強い歯茎の痛みに悩まされることになります。

歯周病の治療は、まずは歯に付着したプラーク(歯垢)、歯石を取り除きます。
プラークや歯石が付着していては、いくら薬や歯周病対策グッズを使っても改善できません。

特に歯石は、一度歯に付着すると自分自身で取り除くことができないのです。
そのため、歯科医院で歯科医師や歯科衛生士が専用の器具を使用して歯石を取り除くことが欠かせません。

そのうえで、歯石を付着させないために患者さん自身で毎日の歯磨きをしたり、歯周病ケアを行う必要があります。

歯周病の症状がより進んでしまっている場合は、歯石の除去以外に歯周病によって深くなった歯と歯茎の隙間(歯周ポケットといいます)を改善するための外科的な手術を行うこともあります。

また、歯石とプラークのどちらでもない、糖尿病や喫煙などが原因でが歯周病が悪化していることもあります。
禁煙や食生活改善など指導を行いつつ、お口の中の環境も整えておくことが大切です。

セルフケアとプロフェッショナルケアのセットが重要である

歯周病の治療には、歯科医院で歯垢や歯石をとるなどの「プロフェッショナルケア」、患者さん自身が毎日お口の中を清潔にする「セルフケア」の両方が欠かせません。

どちらか一方が欠ければ、歯周病治療は十分にできないのです。
自分で一生懸命ケアしているのに改善しない、歯科医院に定期的に通っているのに改善しない方は、ケアが不十分でいないか見直してみてくださいね。

歯周病の予防対策


毎日歯磨きをする

歯周病の原因は、歯周病菌です。
まずは毎日の歯磨きをしっかりとすることでプラークや食べかすを取り除くことで、歯周病菌がお口の中で増えることを防ぎましょう。

歯1本1本のプラークを取り除くように、1回に10分ほどの時間をかけてしっかりと歯磨きをしましょう。
プラークを取り除く効果の高い電動歯ブラシを使うことも効果的ですよ。

また、歯ブラシだけではお口の中の6割程度しかプラークが取り除けないという研究結果があります。磨き残しの40%、歯と歯の間のケアをしている人は、全体の約4割といわれています。

6割の人は歯と歯の間が磨けておらず、歯周病のリスクが高い状態なのです。

歯ブラシの毛先は歯と歯の間にはしっかりと入りません。
歯と歯の間のケアをするために、フロスや歯間ブラシを使うことがポイントです。

定期的に歯科医院で汚れを除去する

歯ブラシやフロス、歯間ブラシを使っても、磨き残し(歯垢)を0にすることは実質難しく、ほぼ無理です。

一般的に歯科医院では染め出しをして全体の磨き残しが20%以下になると「非常によく磨けている」と判断されます。
20%の磨き残しでも、数時間~数日で歯垢が歯石となって歯に付着して歯周病菌の住処になってしまいます。

しっかりセルフケアをしている人も、定期的に歯科医院に通院して、その少しの汚れを除去してもらうようにしてくださいね。

定期的な歯のクリーニングは虫歯や歯周病の早期発見のほかに、口腔がんなど思わぬお口の中のトラブルの発見にもつながりますので、問題が起こる前に定期的にチェックしてもらうようにしましょう。

糖分を控えた食事を心がける

歯周病により糖尿病患者の血糖値のコントロールが悪くなると解説しましたが、反対に、糖尿病になると歯周病が悪化することもあります。

高血糖になると身体の免疫力が低下するため、歯周病菌と戦う抵抗力も弱まり、歯周病が悪化しやすくなります。

血糖値をあげないために、具体的には食物繊維の多い野菜や、ビタミンを豊富に含んだ野菜・果物・肉類中心の食生活を続けることを心がけましょう。

まとめ

歯周病はお口の中だけではなく、全身に悪影響を与える可能性があるとても危険な生活習慣病です。
日々の歯磨きや定期検診で、歯周病の進行を予防することが現在や将来の健康に大きく寄与することになります。

歯茎の状態や口臭で歯周病が疑われる場合や、歯周病だと診断された場合は、歯科医師や歯科衛生士とよく相談して、毎日のセルフケアの見直しや歯周病治療をしっかり行ってお口の健康を守るようにしてくださいね。