インフォームドコンセントとは


患者さんが担当の医師などから、診療内容について十分に説明を受け、同意をしたうえで治療方法を選択することを「インフォームドコンセント」といいます。
患者さんが自分自身で受ける治療を決定する権利があるということです。

医療行為はデメリットもある場合が多く、事前に副作用が予測されるものもあります。
一方で、医療行為を実施しなかった場合のデメリットやメリットも存在します。
あらゆる可能性について患者さんに説明して同意を得ることで、双方の信頼関係に立つ形でスムーズに治療を進めることができます。

医療現場ではこうした目的に基づいてインフォームドコンセントが行われていますが、「患者の知る権利」「自己決定権」といったものを保障する仕組みでもあるといえます。
医療が父権主義(医師中心)ではなく、患者さんを中心としたものとなるための基本的な考え方といえるでしょう。

インフォームドコンセントにおいて必ずしも同意書が必要なわけではありません。
口頭で同意を得ることもよしとされています。
もし、意思を表明できない、または未成年、高齢といった患者さんの場合には、家族代表者や法定代理人などに同意を求めます。

また、患者さんの他にも家族、医療関係者、ソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの関係者が連携して情報共有し、同意に至るという形もあります。

医療側には努力義務があります

平成9年に医療法が改正され、インフォームドコンセントは「医療関係者は行うべき努力義務がある」として明記されました。

これに基づき、さまざまな医療機関で患者さんを中心とした医療システムを実現するための方針が整えられてきています。
もし、患者さんがインフォームドコンセントを医師らに求めて反論や不満を言われたとしたら、それは医療関係者側が間違った対応をしていることになるでしょう。

治療に関する説明は、どうしても患者さんにとっては難しいものになってしまいがちです。
しかし、医療法第1条の4第2項では「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」と定められています。

医療関係者はただ説明をするということだけでなく、患者さんが理解できるように工夫をすることも含めての努力義務であるといえます。
専門用語をなるべく使わず、図や写真などを使いビジュアル面で工夫するほか、プライバシーが守られた空間で時間を設けて説明したりすることも、インフォームドコンセントの一環といえます。

説明をしても患者さんが理解できないまま放置してしまうと、十分な合意形成がないまま治療を進めることになります。
その結果、患者さんや家族が医療側に不信感をもったり、病状や治療の説明が腑に落ちないままになったりと、信頼関係が崩れて治療のプロセスや結果に影響することも考えられます。

なぜインフォームドコンセントが普及していないのか

インフォームドコンセントは、医療従事者中心といえる医療から、患者さんの意思を尊重するための考え方としてはじまりました。

しかし、まだまだ日本では医師と患者さんの関係が対等になっていない側面もあるとみられています。
「先生」と呼ばれるように医師の方が立場がうえであるという意識が、まだまだ根付いているという状況が残っているといえます。

また、医師が患者さんへ説明をしたとしても、「同意」まで十分に得られていないというケースもあります。
これまでの医療現場では患者さんへの説明が不十分であり、説明が普及してきただけでも喜ばしいことですが、その先にある「同意」を得ることはさらに難しいプロセスになります。
「説明さえちゃんとやればいい」と思い込んでしまうと、医療側と患者さんとの間でコミュニケーションが成り立たなくなります。

インフォームドコンセントの柱は「説明」と「同意」です。
この両方が十分に実践されてこそ、本来のインフォームドコンセントといえるでしょう。

患者さんができること


まず、患者さんには「自己決定権」や「知る権利」があるということを知っておくと良いでしょう。
もし医師が提案した検査や治療を拒否したとしても、患者さんに不利益があってはいけません。

また、セカンドオピニオンを利用する方法もあります。患者さんから医師に説明を求めたり、疑問に思ったら第三者に意見を聞くことができるということを覚えておきましょう。
セカンドオピニオンという仕組みがあるといっても、まずは主治医と十分なコミュニケーションを図るようにしましょう。

説明が十分に感じられない場合や、説明に疑問点がある場合は緊急性が高い治療でなければ、一度持ち帰って病態や治療方法について調べてみてください。
もし、インフォームドコンセントやセカンドオピニオンを求めても拒否するような医療機関だったとしたら、転院や転医を検討すると良いでしょう。

また、普段から身体やこころの健康などに関心をもち、書籍など信頼のできるもので知識を蓄積していくことも大切です(インターネットの情報は医師の監修があるものなどを参照するようにしましょう)。

大病を患ったときにどういった治療を望み、どのような生き方を選ぶのか、家族と話し合っておくのも大事なことです。
こうした情報共有が、インフォームドコンセントでも家族が同意について判断するときの大きな材料になります。

もちろん、歯科医療でもインフォームドコンセントは有効な考え方です。
状態の悪い歯があれば、ブリッジや矯正など、どのような治療方法が望ましいか調べておくと、いざ治療を受けるときに歯科医師とのコミュニケーションが取りやすくなり、治療への合意もスムーズになります。

歯科では、歯科医師の前で患者さんが口を開けたら同意した、とみなされることも多々あるようです。
疑問点があればその場で質問するようにしておきましょう。

インフォームドコンセントは日本ではまだまだ新しい仕組みで発展途上といえますが、日頃から意識しておくことで説明を受けたり同意をしたりするプロセスがスムーズになるのではないでしょうか。