痛いのに、歯医者さんでは問題ないと診断されました

通常、お口の中に痛みがある時には、歯科医院を受診することが多いと思います。
しかし精密検査をしても、虫歯や歯周病、歯の位置異常などが見つからず、原因がわからないケースがあります。

こうしたお口の痛みは「口腔顔面痛」かもしれません。

口腔顔面痛は、お口の中以外の部分が原因となってお口の中に痛みが発生している場合に診断されます。
具体的にはどのような症状が発生するのか、確認してみましょう。

口腔顔面痛の代表的な症状

次のような症状がある場合には、口腔顔面痛と診断される可能性があります。

・歯の神経を取ったのに痛みを感じる
・歯を抜いた後から唇や舌にしびれがある
・治療で抜歯したのに、まだ痛む
・口が開きづらい
・食べ物を噛みづらい
・顎に疲労感があり、頭や首、肩まで重く感じる
・お口の中から目の奥まで痛い
・歯茎を触るとヒリヒリと痛む
・舌や口の中が痛い
・洗顔や歯磨きで電気が走るような痛みがある
・どの歯かは特定できないが、うずくようにお口の中が痛い

もし歯に問題はないのにこうした痛みが発生したら、口腔顔面痛の可能性があります。

口腔顔面痛の原因分類

口腔顔面痛のように、歯に原因はないのに痛みがある症状は「非歯原性歯痛」とよばれます。
歯痛で歯科医院を訪れる患者さんのうち、3%が非歯原性の痛みで、9%で歯原性と非歯原性が混在しているという報告もあります。

ではこうした非歯原性歯痛は、どの部位が原因となって発生しているのでしょうか。

日本口腔顔面痛学会が定めている「非歯原性歯痛診断治療ガイドライン」では、次の7つの原因に分類されています。

1.筋肉や筋膜性の痛み

顎周辺の筋肉が痛みを発生させている場合には、筋・筋膜痛症と診断されます。
おもに咀嚼筋が疲労することで、しこり状のものが生じ、鈍痛を起こします。

とくに臼歯部に痛みを感じるので、誤って歯の神経を抜いたり、抜歯してしまったりすることもあります。

非歯原性歯痛の中でも、もっとも多いのがこのタイプです。
どの歯なのかはっきりとわからないものの、痛みが継続する場合には、筋・筋膜痛症の疑いがあります。

2.発作性神経障害性疼痛による痛み

歯に瞬間的な激痛が走る場合は、このケースが考えられます。
三叉神経痛(さんさしんけいつう)や舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)と診断されます。

何らかの要因で神経に強い圧迫が生じ、わずかな刺激で強い痛みを感じるようになります。
このタイプでは、痛みは発作的に突然生じます。

洗顔や食事、会話などのちょっとした行動でビリっと痛みが走るので、日常生活にも支障が出ます。
痛みは片側に出現することがほとんどです。
50代以上の高齢者に多くみられます。

3.持続性神経障害性疼痛による痛み

眠れないほど絶え間なく痛みが持続している場合には、このケースに該当するかもしれません。

急に痛み始めた場合は、帯状疱疹(たいじょうほうしん)の初期症状の可能性があります。
虫歯がないのに歯がズキズキと痛み、やがてより激しい痛みになっていきます。
最終的には口腔の粘膜や顔面に、痛みを伴う赤い斑点や水疱ができます。

歯科治療の後から痛みが出ている場合には、外傷性神経障害性疼痛かもしれません。
歯の神経を抜くなどした際に、残った神経が傷ついてピリピリとした痛みを生じさせます。

4.神経血管性頭痛による痛み

神経血管性頭痛とは、片頭痛や群発頭痛のことです。
脳の血管が一時的に炎症を起こすことで頭痛を生じさせます。

脳の血管の神経と顔面の神経は合流するので、歯と顔面にも痛みが感じられます。
発作的な痛みで、数時間も経つとおさまるのが特徴です。

群発頭痛は「痛みの王様」ともよばれ、目をえぐられるようだと表現されるほど猛烈な痛みが特徴です。
発作は毎日起こります。

5.上顎洞炎による痛み

上顎洞とは上顎の上、鼻の左右で頬の裏側にある空洞のことです。
副鼻腔の一部でもあり、ここで起きる炎症は蓄膿症ともよばれます。

風邪をひいていたり、鼻が詰まったりしている場合にはこのケースが考えられます。
上顎の奥歯に痛みが発生し、上顎洞付近に圧迫感が生じます。

6.心臓疾患などによる痛み

狭心症や心筋梗塞でも歯痛は発生します。
動脈解離や心膜炎といった胸部疾患でも同様で、中高年に多くみられる症状です。

多くの場合、運動などをした時に両側の歯に痛みが出ます。
痛みは10分程度でおさまることがほとんどですが、重篤な疾患のため、早期の対処が望まれます。

7.心理的要因による痛み

うつ病や統合失調症などの精神疾患や、強いストレスなどが歯痛を誘発することがあります。
不安などの精神的な状態が、身体に表出するとされています。

この他にも要因がはっきりとしない、原因不明の口腔顔面痛もあります。

口腔顔面痛に含まれる疾患

口腔顔面痛に含まれるおもな疾患の治療・緩和方法を見ていきましょう。

・舌痛症
舌痛症は舌先や舌の周辺部がヒリヒリと痛む病気です。
見た目には異常がなく、食事中に痛みが発生することはほとんどありません。

貧血やカンジダなど原因が明らかな場合もありますが、特定できないこともあります。
精神的な要因が絡んでいることもあります。
薬物治療の他に認知行動療法などを取り入れ、痛みをコントロールする手法で改善を試みます。

・口腔乾燥症
ドライマウスともよばれます。
口や喉が渇き、喋りづらくなったり、食べ物が飲み込みづらくなったります。
原因は他の病気によるものやストレス、薬の副作用など、さまざまです。

水分摂取をこまめにし、口呼吸をやめ、しっかりと咀嚼するなど、生活習慣の改善で症状がおさまることがあります。
口内を保湿するジェルなどで、対処療法を行うこともできます。

・三叉神経痛
三叉神経痛に対しては多くの場合、まず薬物療法が行われます。
神経ブロック注射で痛みを緩和させたり、ガンマナイフによる放射線治療も適用されます。

外科手術によって、三叉神経を圧迫する血管を移動させることもあります。

口腔顔面痛の治療法について

口腔顔面痛は原因はさまざまです。
ひとくちに歯痛といっても、痛み方には違いがあるので、その症状や精密検査から原因を特定して、適切に対処する必要があります。

心疾患などの専門的な治療が必要な原因ではない場合は、薬物療法や神経ブロック療法で、痛みを取り除く治療を行います。

また、ストレスなどの心理的要因が痛みの要因となっていることも多く、認知行動療法などで心理面からアプローチします。

原因のわからない痛みには…

このように口腔顔面痛は歯科領域だけにとどまらない病気ですが、まずは歯に問題はないかよく確認する必要があります。

かかりつけの歯科医院に症状を伝え、精密検査を経てから、他科を紹介してもらうと良いでしょう。
神経系の病院(精神科)や口腔顔面痛に特化してる病院もあります。

痛みの起こる頻度やタイミング、持続時間などは記録するようにして、スムーズに適切な治療を受けられるように準備しておくのがオススメです。